佐藤貴信 出身:兵庫 所属:貴乃花 身長:173センチ 体重:157キロ

<プロフィール>
埼玉栄高時代で数々のタイトルを獲得するなど輝かしい実績を残し、26年9月に在学中のまま初土俵を踏む。各段を順当に1場所ずつで通過すると、幕下中どころにもまったく壁はなく、デビュー1年後の27年9月には、21枚目で頭から6連勝。最後の相撲に敗れるも、楽日の決定戦でも決勝まで進み、改めてその強さを多くの相撲ファンおよび関係者の前で披露することに。

翌11月も頭から3連勝して期待させるも、ここから急に勝てなくなり、1月にまたがっての6連敗。ついに大きな壁に直面したか、具体的には上位の(特に立合いにおける)強さ・鋭さに惑わされ、前に持っていかなければ・・・との力みばかりが目立っていました。

しかし、1月の3番相撲でようやく連敗を止めたことでそうした肩の力も抜けたか、ここから再スタートでエンジンを温め直していく。同1月を4勝3敗と勝ち越し、一桁の地位に復帰すると、迎えた去る3月は1番目の相撲で学生相撲出身の実力者大輝を下して勢いづき、4番目には注目の宇良を退けるなど連戦連勝。ついには7番目で幕内経験者大岩戸をはたき込んでの幕下優勝!見事デビュー場所から1年半の早さで十両昇進の栄誉を手にすることとなったのです。
師匠は「すでに考えている」という四股名を敢えてこのタイミングでは封印し、「幕内に上がってから」とのコメントを残している。期待の大きさに応えるべく、今年中の入幕を目指し、さらなる邁進を重ねていくことでしょう。



<取り口>
立合いから思い切りかまし、足を前に出してガンガン圧力をかけていくというよりは、低い構えでもちゃもちゃしながら相手の狙いを外し、ジワジワ押し上げながら自分の距離を作って、いつの間にか相手を土俵際に追い込んでいるという高校の先輩でもある虎太郎と似た取り口に持ち味があるタイプ(そうした類似が虎太郎特集を更新した春場所前に、続けて佐藤の記事を書きづらかった理由でもありました)。
相手の動きを見ながら次の展開を作っていきたいという取り方が相当程度体に染み付いていますから、上記大岩戸戦のように、当たりあったところで距離が出来て、相手の体勢が流れつつあるのを見ると、さっと首を押さえ、体を開いてはたき落とすというパターンに自然と体が反応していくし、毎場所のようにこの形で勝つ内容があります。
ただ、相手の動きをよく見ながら取ろうとすれば、どうしても腰が高くなって足の出方も鈍くなってくる。それでも立合い当たって相手の上体を起こせていれば良いのですが、上位初挑戦の頃みたく、逆に一つ強い当たりをもらってしまうと、途端に自分の距離を見失って、構えを崩したまま前へ出るから足が伴わないで前に落ちたり、一旦は圧力をかけたとしても、上から下の攻めになって押しきれず、まともに引いてしまったりということになってしまう。
押し相撲の中でも、とりわけ複雑かつ繊細なカテゴリに属する取り口ゆえ、このあたりの微妙な狂いが迷いとなって、昨年九州から初場所にかけての連敗にも繋がっていたのかもしれません。 


・・・で、これまで書いてきたようなことが優勝した春場所でどういうふうに変わっていったか…という部分なのですが、実はあまりパッと分かるような変化はないと思うんですよね。
すなわち、プロフィールのところで書いたように、元々昨年九州の時点から一桁の番付で3連勝するような地力はあったわけです。しかし、その後の4連敗によって必要以上に考えこんで、自分本来の相撲を乱してしまっていた(この4連敗にしても、相手が初場所以降十両で活躍している千代翔馬、千代の国、出羽疾風でしたから、幕下レベルではなかったといえばそれまでなんですよね…)。
それが初場所3番目からの4連勝によって元に戻ったというべきか、「上位でやれる」という自信を回復させることができたのではないでしょうか。
春場所の内容を見返しても、まず立合いで一つかまして、相手の上体を起こすという原点を迷わずに貫き、そこから相手が崩れたのを落ち着いて捌く格好での引き・叩きが4番。終始攻めて押し切った魁戦にしても、馬力で一気に持って行ったというよりは、あくまで身上とする構えを崩さないしぶとく粘り気のある押しに徹し、低さ比べに焦れた魁が辛抱しきれず引いてきたところでサッと距離を詰め、ハズにかかっての押し倒しという勝ち味でしたから、あくまで、従来的な持ち味を遺憾なく発揮することができた結果としての優勝だったのかなと。
結論としては地味な落とし所で申し訳ないですが、佐藤のような取り口の力士にとっては、そうした自分の相撲を信じきる精神面の持ちようがとりわけ重要であるということを個人的にも改めて実感させられた思いがしました。


<今後の展望>
どうしても「これで一気に攻めるような馬力がついてくれば」などという評論をされがちになるのですが、普通に考えれば分かることで、相手の動きを見ながら取るスタイルのまま一気に出ることなどできませんから、そこは「二兎追うものは~」となってしまう怖さを本人も体験したはず。
虎太郎のところでも書いたとおり、若羽黒・琴ヶ梅型というか、こういう構えをなるべく崩さないまま、じわじわと押し込み、相手の構えを崩して追い詰めていくような相撲は、ビシっとした見栄えがしない分、あまり良いようには評価してもらえないことも多いのですが、それ特有の魅力や良さがあるわけで、何も気にすることなく、堂々と突き詰めていってほしいもの。
さすれば、何度かの壁を経験することになっても、ゆくゆくは幕内上位で勇敢に活躍する時期が必ず訪れるでしょう。