お馴染みの北の富士さんが「笑っちゃうくらい強い」とまで形容する「遅れてきた強豪」と、その猛威を誰よりも濃く強く実感しているであろう二人の横綱、三者鼎立の優勝争いはいよいよ終盤戦へと突入する。


栃ノ心 11-0
伝言板の方で指摘したような「ちょっとした緩み」もなく、集中しきって連勝街道を走り続けている。
あまりにもまともに取りすぎている感がある対戦相手の方に、もう少し揺さぶる(右膝に重心をかけさせるというだけでなく、右肩が悪いという報道も出ているので、単に変わる・飛ぶというだけでなく、栃ノ心の左を取らせず右腰にくっつくような狙いも含め)意識づけがあっても良いとは思ってしまうし、本人の頭にも少しはそういうものが過るのではないかと想像するのだが、本当に強い時というのは、相手のことをアレコレ考えないものなのかもしれない。また今日の相撲も右からの攻めが自然に出ていて、ひとまず右肩の状態も悪化させることなく来られているようだ。

11日目の展望
vs 琴奨菊 7-24 過去6場所 ‐○●‐○○
琴奨菊が大関時代対栃ノ心戦16連勝していた時期の内容はこちらの通り。最近も琴奨菊が対右四つ用の戦術である右差し左前廻し狙いに出るのは変わらないが、栃ノ心の踏み込み良く左上手も早いので太刀打ち出来なくなってきた。
オプションとしては本来の左四つ狙い(右引っ張り込み)ともろ差し狙いがあり、明日はこれらに変えてくる可能性もあるか。
いずれを採るにせよ琴奨菊の左と栃ノ心の右で差し手争いになるのは必至であり、琴にとっては右肩に不安を抱えるとされる今場所の栃が初日、左四つの松鳳山戦で二本差されていることもヒントになり得る(それ以降は左四つの力士と対戦なし)。個人的にはもろ差し狙いで中に入る策戦がもっとも有効ではないかとみるが。

11日目の感想
向正面解説の稲川親方が、私見と同様に琴奨菊のもろ差し狙いを推奨していて嬉しかったというプチ自慢を最初に(笑)
そのあたりは栃ノ心が取組後に話した内容も気になっていて、曰く「立合い差すか廻しを引くかで迷った」とのこと。これを琴奨菊に左前廻しを取られた後の対応で「(自分の下手を)差すか廻しを取るか迷った」と捉えるか、或いは「琴奨菊が(左を)差すか(左前)廻しを引くか、どちらの策戦で来るか迷った」と捉えるべきかはなかなか難解な問題(現時点でこの点を詳述した記事は見当たらない)。

ただ、本人の狙いがどうであったにせよ、その踏み込みはやはり強く、琴奨菊の右を引っ張りこんだ左で揺さぶりながら徐々に右を差そうとしていくと、琴奨菊の左からの締め付けが弱まり、右を差して下手を引くことができた。
さらに左で起こしてから右で大きく振って崩すや、またも左でおっつけながら上手を引くという左右一連の動作も理に適っていて、なおかつ低迷期の栃ノ心には欠けていた技術。
上手を取ってからの流れについては、もはや触れるまでもないだろう。かつて苦手とした大関経験者を堂々と退けた一番は、大関昇進を確実とするにふさわしい風格溢れる11勝目となった。

明日の展望
vs白鵬 0-25
さあ、いよいよ横綱戦の幕が開ける。
過去の対戦は、よく知られているとおり白鵬のシャットアウト状態。これまで定番のように使われていたフレーズは「右四つに組めば、栃ノ心は十分でも白鵬は十二分なんだから」というもの。実際、どうしても踏み込みの角度や速さ・鋭さに差異があり、栃ノ心の左上手は上から、ないし変化気味に横から掴む形になるため横綱の柔軟な体質に対しては引きつけが効かず、またいとも簡単に切られてしまうことで絶対的優位を築かれ、為す術もなく破れてきた。
上記琴奨菊戦の感想でも記した通り、現在の栃ノ心は左をおっつけながら良い位置の上手を引けるようになり、引きつけに移行するタイミングも早くなって確実に手強さを増してはいるが、なおも白鵬の鋭い踏み込みに対して後手を踏む公算は大きい。横綱は左前廻し狙いの他に、もろ差し狙い・左で張ってもろ差し狙い・単に張り差しで右四つ左上手を作らんとする可能性もあるが、いずれにせよ踏み込みの鋭さを前提にしたものであり、栃ノ心としては先手を取られないような自身の立合いに集中するのが第一とはいえ、前哨戦で突いて出るなり何かこれまでとは違うことをして横綱を慌てさせるような狙いも考えているかどうか。
単なるミラーゲームと化しては依然白鵬有利というのが、私見のみならず恐らくは大多数の協会関係者にも共通した見解であろう。その意味でも栃ノ心が明日どれだけのことをやれるのか、熱い視線が注がれることとなる。



鶴竜 10-1
鶴竜は今日の取組を受けて、「(ここ数日の好内容で築いてきた)良い流れを自分で台無しにした」と話したよう。考えこんでしまって失速するというのが過去にもあり、また松鳳山戦の負けも相手の出方に迷っての立ち遅れが主因とあらば、分析スタイルのブログとはいえ、精神面を最終盤の課題に挙げざるを得ない。明日以降対戦相手の地力もグッと上がってくるだけに、気を引き締めてかからねば、連覇どころの話ではなくなってしまうだろう。

11日目の展望
vs御嶽海 過去6場所 ●‐‐‐●‐
対戦成績2連敗中で、優勝した先場所も割崩しによって対戦の機会がなかった。
鶴竜が苦手とする小さくなってササッと間合いの中に入り込んでくるタイプゆえ取りづらそう。立合いの強度も増しているだけに変に受けてしまうと大変まずく、負けじと突き上げて行っても下から下から宛がう動きが邪魔で思わず引いてしまうケースから負けた(29年初)こともある。
張り差しで止めるのもさほど上策とは言えないだけに、とにかく踏み込んで先手を取り、むしろ御嶽海に引かせるくらいの圧力で突き放していきたい。迷いを吹っ切り、最終盤への弾みとするにはこれ以上ない相手、今場所の分岐点ともなりそうな取組と言えそうだ。


11日目の感想
いやはや、横綱は立派に切り替えてきた。厳しい踏み込みで当たり勝ち、目論見通り御嶽海に引かせる形を作ったのだから、その心裡を去来したであろう迷いを見事断ち切り、この日の土俵に込めた強い覚悟のほどが伺える。
御嶽海に向正面側へと回りこまれたところから引きが出かかったようにも見えるが、これは解説の鳴戸親方も指摘した通り「まともな引き」ではなく、横にいなしながら相手を崩していかんとする「正のサイクル」によるもの。
そんな横綱ペースにも関わらず、揺さぶりに動ずることなく横綱を正面に見据えながら、突いてくる手を的確に跳ね上げ跳ね上げ追い詰めんとする御嶽海の攻勢もまたあっぱれで、負けじと鶴竜も本人が「絶対に引かない」と話したとおり、上体を起こさず懸命に相手の中から中から突きの手を出さんとしていく。
最後は御嶽海が右ハズ左で突くところで少し空間が生まれ、鶴竜が柔らかく身をこなしながら左を開き右に回る動きに御嶽海がわずか足を送りきれず、好戦に終止符が打たれた。
双方よく攻めよく凌いでの力戦奮闘が光った白熱の攻防、鶴竜にとっては本当に大きな勝ち星となりました。


12日目の展望
vs勢
およそ1年ぶりの対戦。一時期3連敗も経験した苦手の一人で、立ち合い前廻しを狙う鶴竜の左を勢の右に引っ張り込まれることで攻めあぐねるパターンが目立つ。
勢が得意とする右からの投げは、先に左からの攻めで圧力をかけてから繰り出すことで効果を高めるので、横綱としては前回勝利した29年春のように両廻しをしっかりと引きつけ勢に投げ腰を使わせぬ攻めに徹したい。
右手指の状態ゆえ力相撲を避けたい意図がある場合は突いて出る可能性もあるが、今場所の勢はよく体が動いているだけに、懐の深さ・回り込みの上手さも計算に入れておきたい。


白鵬 10-1
10日目の琴奨菊戦は甚だ見苦しい呼吸具合で立ち、予想以上の批判も飛んだが、調子自体を見れば、完敗を喫した阿炎戦以降、立合いのバリエーションに依存するのではなく鋭い踏み込みで確実に先手を取る内容が目立ち始め、持ち直し基調にあることは間違いない。
優勝するとすれば先行逃げ切り型が断然多い横綱、然し今回は逃げる栃ノ心を懸命に追いかけ、何としても引きずり下ろすという心境で居るだろう。おそらくは12日目にも組まれそうな直接対決、それまでに2差をつけられることだけは避けねばならない。


11日目の展望
vs正代 3-1 過去6場所 ‐○‐‐‐‐
29年1月・7月と、白鵬が立合い右にずれながら右で強烈に張って(効能としては、いなしているのに近く、少なくとも張り差しではない)、正代を昏倒させる取組もあった。
横綱としては顎を上げて立ってくる相手にそれだけ隙があるのだから…と言いたいだろうが、今場所大栄翔戦での張りに横審委員長が苦言を呈し、それを伝え聞いて以来は(立合いでの張りを)封印しているだけに、明日も左前廻し狙いで踏み込みつつ、突き放して勝負を決めにかかる公算が高いか。
左を差されそうになれば、左喉輪右おっつけの型で攻め上げるなり振りほどいてまた突くなり、流れに応じて体を動かしていき、土俵際の逆転にだけは気をつけながら詰めにかかりたい。

正代としては、横綱の出方をある程度想像しているでしょうから、出来るだけ低く踏み込んで横綱の引きを下からはね上げはね上げしながら中に入らんとする形勢に持ち込めるか。左でも右でも入ったら間髪入れぬ出足で前に出たい。