土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2015年09月

波乱渦巻いた最終盤の勝負から優勝争いに関する4番の模様をお届けします。

13日目
幕内
●11-2照ノ富士(寄り倒し)稀勢の里10-3○
立ち合い、照はこの日も張り差しからの左四つではなく、右四つ狙い。夏みたく手繰りに行くのを主眼においてというのでもなく、普通に右四つを作りに行きましたが、稀勢の里はやや左にずれながら左おっつけ右喉輪。照が左でおっつけながら前へ出るも、稀勢はやや右が空いたところへ左をサッと差し込んで返し、右上手。
この形で寄るところを照ノ富士が左から振って・・・というのは従来通りの流れなのですが、ここからいつもは照ノが一度ないし数度右からおっつけて前へ圧力をかけ、その反動で稀勢が強引に出るところを続けざまに振って倒すというのが勝ちパターンであるところ、この日は稀勢の左返しが良かったこともありますが、攻めのないままわずかに右上手を探るような仕草を見せたのみ。そこを稀勢が休まず攻め立て、下がる一方になってしまっては・・・というのが勝敗を分けた最大のポイントだったのかなと見ます。

怪我に関しては、巡業中に痛めた左が悪いんだろうという想像は3日目後にも触れた通りで、場所の取組内容から察するところがありましたから、最初はてっきりそちらを痛めたのだと思っていたので、「なんとか体重を逃がすようにして倒れた分大怪我はないか・・・」と観ていたら、怪我をしたのは俵に引っかかるようになった右足でした。小手にせよ、上手投げにせよ、主に左からの投げを繰り出す照にとっては踏ん張るのに使う方の足ですから、これは大変なことになったぞ・・・と。
あの北尾戦の小錦にしてもそうですが、並外れた下半身の強さとバネを持つ照だからこそ一人で土俵を下り、車いすにも頼らず・・・でしたが、実際に出された診断書と照らしあわせても、やはり翌日以降の出場は無謀であったと言わざるをえない。彼の洋々たる前途を望むからこそ、今回の強行出場を「勇気ある」などと評してはならないと思っていますし、今場所後の調整も、大関という地位にある特権も考慮しながら、怪我の回復を何より再優先に取り組んでもらいたいと強く願っています。より詳しくはまた総括記事で。


14日目
●10-4稀勢の里(寄り倒し)鶴竜12-2○
論点としては数えきれないほどあるのですが、取組内容自体は、凡戦と言わざるをえないところで、きわめてノーコメントに近い心境です。
一級の勝負師なら二度目の変化は読んで、手を出しにいくなりしてほしかったが、稀勢の里がそういう力士かといえば・・・ですし、組み止めた後の流れもじっくり行くべきだったというのは簡単なのですが、まあ結局は終始鶴竜がペースを握っていたというしかないのかな。

立合い変化の是非については、今ここで私見を書くことはしませんが、楽しみにこの一番を見守った観客やテレビ桟敷の立場として、せめても「残念」と言えるくらいの権利は保証されるべきでしょう。

千穐楽
○12-3照ノ富士(寄り切り)鶴竜12-3●
一時期そればかり書いていましたが、久々に照ノ富士の良い突き放しを見て、肘のことはあるだろうけど、是非これを主な取り口の一つに取り入れて欲しいなと再実感しましたし、膝の不安とも戦っていかなければならない来場所以降、終始前へ攻めるという型を身に着けるにおいて、当然模索していかなければならない手段であるとも思う。
ともあれ、照が放つ「攻めるしかない」の気迫に気圧されたか、鶴竜は立ち合いで上体が起き、終始受け身。何も出来ないままに土俵を割り、舞台は優勝決定戦へと移った。

決定戦
○鶴竜(上手出し投げ)照ノ富士●
東西入れ替わっての決定戦は気を引き締め直した鶴竜の真骨頂。鋭い踏み込みから素早く両前廻しを浅く取り、引きつけておきながら、照が出るところ、遠心力を使うように体を左に回し、定石通り下へと打ちつける出し投げを放てば、手負いの照ノ富士に残す余力はなく、鶴竜に横綱昇進後初、通算2度目の天皇賜杯が齎された。

本割を見た後、照ノ富士が立ち合いで飛べば鶴竜は落ちるんじゃないかという予感がしていましたし、照ノ富士が決定戦に勝てるとすれば、それしかなかったのかとも思いますが、やりませんでした。
鶴竜には、稀勢の里戦の変化よりも、決定戦の土俵でそういうこと(相手の変化)が頭をよぎったのかということを聞いてみたかった。

もし実現していたとすれば、やや形は違うものの、19年3月の再現となっていたわけですが、あの件が今も長く批判の対象になっているかと言うと、好角家の間ではともかく、一般にはそういうものになり得ていないのは明らかで、つまるところ、今場所のこともあまり大げさに考えすぎる必要はないのだと思う。

 

・・・ということで、以上、今場所の熱中録でした。今後は明日予想番付を公開し、以降はしばしの充電期間。来月半ばから場所総括→幕下ランキング→有望力士特集→取組別展望という恒例の更新に取り掛かってまいります。

幕下、十両も引き続き面白いのですが、幕内も優勝争いが佳境に入りましたから、そちらを優先。たっぷりと4番をピックアップします。


幕内
○7-5大砂嵐(突き落とし)豊ノ島9-3●
豊ノ島は立合い、大砂嵐のもろ手突きを想定し、柔らかい上体で喉輪を受けながら、左で踏み込んで左ハズ。さらに左へ回りながら、右→左と覗かせモロ差し。前に出ながら大砂嵐の左上手も切って、思い通りの流れでしたが、しいていうなら、本人が「攻めるところではあったが、慌てるところではなかった」と悔やんだ通り、左の差し手が完全には差さらず、足も詰め切れず、腹も生かして下から密着する形が整わないままに攻め急いだ。大砂嵐が土俵際、右で豊ノ島の左を払いのけるようにしながら左へ廻っての突き落としに出ると、僅かに足を送れず、左で渡し込みを見せる執念も及ばず、痛恨の3敗目。行為自体の是非はともかく、この人が負けた後に土俵を叩くほどに悔しがる姿を見せるのは珍しい。

●10-2勢(寄り切り)嘉風8-4○
勢は立ち合い、良かったです。右肩から当たって左はハズかな?嘉風を起こす流れは理想的で、呼びこむ動きを引き出した。しかし、ここでもう一歩左からの攻めが出ず、お尻が引けた状態で嘉風の突きを受け、足が揃って悪癖の引きが出た。すぐに二の足が出て突き起こしながら左を差し込む嘉風、勢もその左をおっつけますが、またも我慢しきれずに引き技。ここも足の寄せが極めて鋭い嘉風が左を深くして、一挙に詰め寄せると、勢は右で抱えて振りに行くも、嘉風の差し手が十分に返り、これは不発。完敗で一歩後退の2敗目を喫した。

勿論、ある程度硬さもあったでしょうけど、内容をシビアに観ていくと、優勝争いどうこうより、従来からの勢の課題が素直に出た内容で、下位ならともかく、好調嘉風相手には力が通じなかったといういたってシンプルな結果かなと思います。


●11-1照ノ富士(寄り切り)栃煌山7-5○
結局は5日目付で書いた立合いに関する「裏表」の話、この日はそれが「迷い」となって現れ、負けに繋がってしまった。
・・・というのは、あくまで結果から遡った上での都合よい感想。実際、ここ数場所で、あの引っ掛けて左上手を取るか、横につくかという流れが失敗したことはなかったので、ただただ栃煌山の右がよく引っ掛けられることなく深く差さったなあ・・・と思いますし、照ノ富士が立合いに迷って違う選択をしたゆえにそれが生じたかどうかについても、教訓としてはYESとするべきなんだろうけど、そう言い切れるだけの材料は持ち合わせていません。

それ以降も、照が左→右と差され、ならばと引っ張りこんで両側から抱えようとしたところで、よく左を抜いてハズに替えられたなあとも思うし、構わず左から振りに来たところでの足運びも見事。大の苦手と化していた照ノ富士対策として、ずば抜けた内容を示した完勝で、この取組前までに後続と2差がついていた優勝争いを一躍面白くさせる殊勲を演じました。


●6-6妙義龍(押し倒し)稀勢の里9-3○
立合い、右の踏み込み良し。妙義龍が二の矢で突き放しに来た右への強烈な左おっつけ良し。右喉輪で崩して赤房方向へ押し込んで行くときの足運びも良し。土俵際、十分に腰を下ろした体勢からモロハズで詰める形も良しで、まさに100点満点の相撲。
ここ数日の内容を観ていたら、この日もやりづらい相手、いっぺんに持っていかれるんじゃないかと危惧していましたが、結果は「なんで俺の時だけ」という妙義龍の嘆き節が聞こえるような強さ。それこそ、ここ1年くらいで見ても、随一の内容だったのではないでしょうか。大関の相撲に対して失礼ですが、正直ビックリしたとしか書きようがありません。
 

11日目もまずは幕下の取組から。

幕下
●4-2大道(押し出し)朝弁慶5-1○
朝弁慶としては、前の一番で新十両を有力にする勝ち星を上げたとはいえ、まだ当確とは言い切れない状況。そこで迎えた6番目の相撲が実力者の大道でしたから、 まさにここが実質上の「昇級試験」なのかなと見ていました。
立合い、大道は出足のある相手にしばしば用いる、右から張って右にずれ、少し引くようにしながら右を差そうという狙い。しかし、朝弁慶いつものように左足から踏み込んで左前廻し、右も取って低い姿勢で挟み付けるようにすると、大道は右足が返ってバランスを崩し、たまらず右を抜いて頭を抑え、左に回りこまんとするも、朝弁慶が下がりのあたりを持つようにして大道の右足を押したので、回りきれずに青房方向で土俵を割った。
とにかく左からの踏み込み・二の足とも良く、腰も下りるので、左を差して返すにせよ、この日のように流れで上手に変わるにせよ、そのまま突き上げるにせよ、先手先手で反応していけますし、何度か書いている通り、一番魅力があると思うのは左四つの型ですが、ともあれ今はこの出足を十分に活かした速攻相撲をどんどん磨き上げていくことに尽きるでしょう。
巨体かつ豪快な取り口を身上とする名力士を過去に幾人も輩出してきた名門高砂部屋の系譜を継ぐ力士として、これからの活躍に大きな期待を寄せたい。

幕内
○11-0照ノ富士(寄り倒し)琴奨菊8-3●
この対戦における見どころも過去に書いているので詳細は割愛しますが、端的に言えば琴奨菊の左前廻し狙いは照ノ富士の右で張って左四つに組み止めんとする立合いにブロックされて、普通に狙いに行ってもハマらないので、理想は夏場所の德勝龍みたいに右の浅い前廻しを引いて、照ノ富士の左を殺すこと。
もちろん、本来左四つでありながら、右上手を浅く取れないゆえ、寧ろ上手を取ったときの形が良い右四つ左前廻し狙いの方が良いのではないか云々の議論が噴出しているわけで、現にやり抜くとなると、なかなか厳しいだろうと観ていたのも確かで、実際、琴奨菊の立合いはあくまで左前廻し狙いでした。

ただ、夏の対戦と比べれば、相手の立合いに対する意識も、胸を合わせてはいけないという思いも強かったようで、右を固めて簡単に左を差させない狙いで居たのは適切。ここで左が仮に取れなくとも、二本入る形が作れればもう少し違う展開になっていたかもしれませんし、実際照ノ富士もその点を「危なかった」と振り返りました。
それだけに、琴奨菊としては左を引っ張りこまれた時点で差し手争いとなっていた相手の左を是が非でも差させないという執念が必要でしたが、おっつけながら差し込まれ、浅く抱え込みながら煽ったところを下手投げで振られると、あっさり深い位置の右上手を取って、自ら上体が起きる恰好を作ってしまった。後は、照ノ富士が右おっつけを利かせて挟み付け・・・という負けパターンを甘受するほかなく・・・というところですね。

総括としては、攻め手を一つに絞れず、徹底しきれなかったゆえの敗戦。どうしても左前廻しが欲しいなら、左に動いてでも取りに行くべきで(実際、これはかなり難しいとは思いますが)、モロ差しを狙うなら何度でもしつこく相手の手を絞るなり、横に振って崩すなりするべきだった。
他の力士にも言えることですが、照ノ富士という力士は、今のところ白鵬のように多彩な仕掛けを繰り出してくる方ではなく、ある程度パターン化した数種の立合いを相手に合わせて繰り出して先手を取り、自分のペースへと持ち込んでいく相撲ですから、向かっていく側としては、自分に対してどういう立合いで来るかをしっかりと研究し、一つのことに集中してやり切る姿勢が最重要となります。3日目付でも似たようなことを書きましたが、繰り返すだけの値打ちあることだと思うので、敢えてもう一度同様の提示をしてみました。


●6-5栃煌山(叩き込み)鶴竜9-2○
場所前の取組別展望でも、栃煌山戦と稀勢の里戦を指して、「勝つための根本的な方法が思い浮かばないので、どうしても負けられないという状況では変化するかもしれない」・・・というようなことを書きましたが、実際に変わる瞬間までは、すっかり忘れていました。。
前日のこともあり、タイプも似てますから、「まともに行っても・・・」と弱気になったんだろうなあ。これはこれでしょうがないと思う。

ただ、「ときに勝ちに徹するのも綱を張るものの務め」くらいのドヤ顔が出来ずに、取組後、マスコミにあれこれ聞かれて「やってはいけないことをした」と憔悴しきってしまうのが、鶴竜の勝負師としてはあまりにも物足りない部分(魅力といえば、それもそうなんですけどね・・・)。
言い方はアレですが、やってしまったからには堂々としているべきで、それを精神的に引きずるようなことがあってはもってのほか、せっかく拾った勝ちが無駄になってしまいます。綱を張って以降、過去に2度同じような批判を浴びていますが、今回は3度目の正直で、場所後「この一番で見せた勝利への執念が優勝に繋がった」と評されるような残り4日間を過ごして欲しい、そう願っています。

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