土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2015年11月

「協会員はしんみりしているけど、お客さんには喜んで帰ってもらおうと。特別なことを一番嫌がる理事長だったから」
場所後の冬巡業で尾車部長が発したコメントですが、急逝の翌日となった14日目の土俵で貫かれたも姿勢も同様のものでした。軽々しくは言えないけど、個人的にもこれで良かったのだと思います。


幕内
●6-8栃ノ心(下手投げ)勢11-3○
栃ノ心は白鵬戦や照ノ富士戦のように左にずれて上手を探る立合いが良くなかった。数度指摘している通り、これでは上手は取れても深くなってしまう。勢は右下手が生命線の力士ですから、ずれなくても上手は取りやすいし、先場所のようにまともに左前廻し狙いで踏み込み、圧力をかけていくのが一番なのですが、勝ちを意識する気持ちの強さ所以か、立合いも少し合わないところがあって、迷いが生まれてしまったのかもしれません。
深い上手に深い差し手は相性抜群、先手を取るための左上手のはずが、逆に右から振って左おっつけと勢に先手先手で動かれると、栃ノ心も左の位置を浅くしてから引きつけて寄りますが、勢としては、日馬富士戦や先場所の栃ノ心戦とは違い、左を利かせて相手の右下手を許していない分、今度は下手投げを打った際の左足をしっかり左方向へと動かすことができました。勝負を決めた青房方向、幕内での自己最多に並ぶ11勝目の勝ちを確信し、見得を切るかのようなドヤ顔も冴え渡る。

一方、終始焦りが際立ち、自滅気味に星を落とした栃ノ心は新関脇を目指した場所で痛恨の負け越し決定。年間通して上位に定着した一年を良い形で締めくくることは出来ませんでしたが、もう一度前を向いて、来年は関脇に留まらない高みを目指してもらいたい。そして、厳しいことを書くなら、この取組には、そうしたスケールの将来を目論むにおいての課題が凝縮されていたように思います。

 
●8-6鶴竜(押し出し)日馬富士13-1○
立ち合い、右で肩を押して、左廻し狙いの両力士、深く下手を引いた日馬富士がすぐさま左へ回って出しながら右を巻き替えんとし、腰が入りそうになりながらもこれを果たして下手を引くと、鶴竜も右で巻き替え。日馬富士、これに合わせて右を離し、鶴竜の右膝を押さえながら左から出し投げを打って崩すと、これが決定打に。後ろについて止めを刺そうとするところ、最後は鶴竜が向き直り加減であったため、決まり手は押し出しとなった。

「(終盤は)駒の損得より速度」という将棋の格言をなんとなく思い起こさせるような、非常にめまぐるしい展開を日馬富士が制し、この後の取組の結果によって単独首位浮上も実現。2年ぶりの優勝に王手をかけました。

膝の大怪我を乗り越え、復帰場所を序二段優勝で飾った羽黒豊。良い意味でのイケイケ感が溢れ出た土俵態度や小さな体で相手の中に入ってグイグイ押し上げていく気風の良い取り口はかつての浪之花を想起させ、海道浪と名乗っていた頃から注目している一人でしたが、色々な苦労を経た一年の我慢と努力がにじみ出た良い表情をするお相撲さんになっていました。また、遠からず有望力士ランキングの中に名前が挙がる時期も訪れることでしょう。

13日目付分はフラッシュで行きます。


幕下
幕下全勝の宇良と三段目全勝の龍勢旺は、終始宇良のペース。立合いで左から足を狙いに行くと、突き押しの龍勢旺、これで足が前に出なくなり、中に入れないよう手先で突き放しつつ低い姿勢で見合う恰好では時間の問題だった。機を見て再度足を狙った宇良がそのまま左を深く差して食いつき、西土俵へと寄り切り。新幕下で見事7戦全勝の快挙を達成しています。

もう1番の5連勝対決は、宇良と同部屋の芝が先場所の幕下優勝ですでに来場所の新十両を有力にしている千代翔馬と対戦。
立合い千代翔馬に右で張られるも、構わず右から踏み込み、得意の左四つ右上手で胸の合う恰好。千代翔馬が左から蹴返しに来るも全然動じず、バランスを崩したところを吊り寄り気味に運んで、格上と見られた相手を堂々と退けました。
千代翔馬は関取昇進を幕下優勝で飾りたいところでしたが、軽い相撲であえなく頓挫。ただ、まあこんな相撲といえばこんな相撲なので、芝がうまく対応したというべきなのかな・・・


十両
2敗で並ぶ2人は、正代が天鎧鵬を外四つからの力強い寄り、大翔丸が荒鷲の右差しを強烈に左からおっつけおいての突き落としで仕留めました。いずれも幕内経験者を相手に、彼らが多く陥る負けパターンにはめ込んでの勝利ということですから、対戦相手の研究という点でも会心の内容だったのではないでしょうか。


幕内
魁聖×髙安は左を差し勝った髙安が左下手をしっかり返して魁聖に上手を与えず、やや深い右上手も挟み付けるような強い引きつけで寄り詰め、9勝目。
魁聖は、蒼国来戦でも少し書きましたが、せっかく良い形を持っているのだから、差し負けてすぐに引っ張り込むような相撲では勿体無い。

3敗対決の勢×宝富士は喧嘩四つで例によって右と左のぶつけ合い。先に左を覗かせていた勢が巻き替えるように右を差して正面土俵へ出ると、ここから宝富士も逆転の突き落としが強いのですが、左右ともハズに当てて詰めた勢の攻めが良かった。とりわけ左のハズが効いて、宝富士の回りこみを許しませんでした。
初三賞を強く意識していた宝富士は、動きが硬く、後手後手に回ってしまった感も。前日までのような積極的な取り口に冴えを欠いた。

2敗松鳳山と逸ノ城は、立合いなかなかお互いの呼吸が合わず。駆け引きに勝ったのは松鳳山で、露骨に立ち遅れた逸ノ城は二本差しを許す。松鳳山はその後も休まず攻めまくって逸ノ城の引き足を誘い2敗キープ。
逸ノ城の敗因は明らかも、立合いをズラしたかったのは自らも同じで、同情はできない。しかし、この日もそうだけど、繰り返す通り、守り方さえうまくなればすぐに星2つ3つの上積みは叶いそうなんだけどなあ。。


嘉風×安美錦は安美錦が立合い右手を下から出して強烈な張り手。場所前の取組別展望でも、嘉風攻略法として、「いかに立合いの早い段階で上体を起こすか、そうなればすぐ引きに来る癖があるので、楽に付け入れるはず、そのためには差すのとは逆側からおっつけて云々・・・」ということを繰り返し書きましたが、なるほど、これほど最小の手数で起こす手立てがあったかと。勝負も、嘉風がたまらず左に回って右で首を押さえるところ、安美錦が右前廻し、左おっつけで詰めて快勝を遂げています。
左手をまったく下ろしていない点も含め、決して品の良い技ではないですが、こういう張りの方法はあまり見た記憶がなかったし、難易度も高そうであるとはいえ、嘉風としては、他の力士に真似をされては果てしなく厄介な立合いになりうるなと。来場所も初日早々に割が組まれる可能性がある鶴竜あたりは目から鱗を落として研究に勤しむのかもしれません。

とっくに場所終わってるから、まったく焦りがない中でのんびり更新中。却ってこれくらいの方が一息つく(だれるとも言う)暇がない分、順調に書いていけるかもしれない。
来場所以降も、本場所中毎日更新の1力士ピックアップ記事+熱中録は5日目過ぎたくらいからという形式にしてみようかしら。

十両
●6-6石浦(押し出し)大翔丸10-2○
白鵬の内弟子でもある石浦が八艘飛びを見せたということで、猫だましと絡めても話題になりましたが、結果は失敗。大翔丸としても八艘飛びはともかく、石浦が立合い左方向へ動くこと自体は想像できていますし、石浦としては、おそらく下りざまに左で廻しを取って投げるようなことをしたかったと思うのですが、飛び方も飛距離が無意味に高い分、着地がままならずに両足が揃ってしまい、しかも両手で首を引くようにしながら下りているので、そのまま相手を引き寄せる恰好では残しようもない。
まあ、そうしたハマらない時のリスクは本人としても承知のはずですし、怪我の虞も大きいので乱用は危険ですが、小さいですから基本的には何でもやればいい。欲を言えば、奇襲に徹する観点において、左右どちらからでも飛べるようになれば、より意義は深まるのではないでしょうか。

幕内
○10-2松鳳山(上手投げ)旭秀鵬7-5●
旭秀鵬が右四つ狙いに出るところ、松鳳山は右で突いて左を固めつつやや左へずれる立合いから、突き起こしておいての左差し、右はおっつけながら上手を取る自分の流れ。
旭秀鵬が右上手を深く取って、捻りながら左で振るようにするところへ出足を合わせて右から攻め、黒房方向、豪快な右上手で屠り、2敗をキープしました。
前日の魁聖同様、旭秀鵬の強引さもあるのですが、そう仕向けているのはすなわち松鳳山のペースということ。元々小力のある人ですから、大きい人と胸が合い加減になっても、こうして相手が自らの体重を軽くするような動きをとってくれれば、より勝ちへ運ぶ展開も作りやすくなってきます。


後半戦の取組は、横綱×大関を始め、あまり内容がなくて書くことも少ないですが、照ノ富士が、これまで本場所ではやりそうでやってこなかった右前廻し狙いの踏み込みを見せたことは書きとどめておきたい。

先場所全勝を止めた栃煌山に完敗の逸ノ城は、立ち遅れた上に小手先に走り、前回とは立合いに雲泥の差があった。稀勢の里、豪栄道については踏み込みと呼べる動作にさえも持ち込めずに敗れたのだから、何をか言わんや。

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