土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2016年09月

貴源治賢 出身:茨城 生年:平成9年 所属:貴乃花 身長:187センチ 体重:141キロ

<プロフィール>
もう1年以上に前になりますが、貴公俊編で触れた内容がほぼ貴源治にも相当する感じなので、そちらをご参照下さい。 
肝腎なのは、今年に入って一挙に幕下定着、あるいはそこを飛び越えての上位進出を果たしつつあるということ。
その要因などについて、以下で分析してみます。


<取り口>
昨年あたり、幕下と三段目を往復していた時期には、まだまだ取り口が固まり切っていないように見受けられたのですが、今年の上半期くらいから、師匠からのアドバイスで立合いもろ手で当たってからの突きに徹するようになり、「大相撲の力士」として、一本芯の通ったものが宿り始めたという印象。
突っ張りの型は場所を経るごとに良くなっており、具体的には立合いでの上体の力みもよく抜けており、突っ張りに行く際の手数・精度・重み、引き手の速さも良し。引き手の速さという点については、場所前出稽古に赴いた錣山部屋にて錣山親方から指導されたようですが(BS放送中のレポート参照)、「難しい」と言いながら、場所に入れば難なくやってのけているあたり、吸収力の高さも抜群で、勿論それだけの稽古量が担保されているからこそでもあるはず。

元々この力士は四つに組んだ際にはどちらに組んでも、差し手を生かしつつ上手の側から攻めるという体にあった相撲を取れる点が大きな長所で、隆々たる上体の筋力とバスケで仕込んだ足腰の強靭さを兼ね備えるバランスのとれた体格を利し、両廻しを引きつけ、胸を合わせて下から上へとしゃくりあげるような寄り身の鋭さは魅力たっぷり。
近時の流行に倣えば、四つの体勢を早くに作るため、立合いで前廻しを狙うような「白鵬型」の取り口を目指すのが普通でしょう(実際、そういう立ち方をしていた時期も昨年以前は度々見られました)。

しかし、貴乃花親方はこれを採らず、「突き押しに徹するべし」とした。この指導が卓見であると感じるのは、 確か根拠として骨格が云々ということを挙げていたと思うんですよね。つまり、体つきを見て、「最初から廻しを取らせるのではなく、突っ張らせた方が良い」ということを的確に見抜く能力。これに関しては流石としかいいようがありません。
いずれ単独テーマとして取り上げたいなと思っていますが、前廻しから取りに行く立合いというのは、そのスタイリッシュさもあってか、最近幕下以下でも数多くの力士が取り組んでいますが、技術的にも体力的にもしっかりと踏み込みながらの前廻しという型は本当に難しく、安易に真似をしたとしても腰高脇甘を助長するばかりで易々とできるものでないですし、貴源治くらい身長が高くて足も長い力士にとってはなおさらのこと(だから、妙な言い方ですが、長身ながらも胴長の体型と言われる白鵬の足が後少し長ければ、この10年の大相撲はそれなりに違うものになっていた可能性も否定はできないわけです)。

その点、突きに徹さしめ、突き切るための稽古に集中させれば、勿論そのまま突き出す、押し出す相撲が取れればベストだし、仮に突ききれずに組む形になったとしても、小手先ではない、しっかりと体重の乗った突きを身につけることにより、相手のバランスを崩し、先に自分有利の体勢に組む確率が高くなり、上記したような四つに組んだ際の長所もより生かされやすくなります。
最高位の20枚目で6勝をあげた去る9月場所でも、飛翔富士、芝という大型ないしは腰の重い四つ相撲の実力者を相手に、まずはしっかりと踏み込み勝ち、出足をつけてからの四つに渡り合うや、先手先手で両廻しを引きつけての速攻を繰り出し、何もさせずに寄り切る会心の内容がありました。
師匠の的確な指導もありますが、何よりそれを素直に聞いて、恵まれた体格をもっとも合理的に生かす正攻法の取り口に進境を見出した本人の努力の賜物ですし、前述した吸収力の高さという面も含め、相撲経験なしから入門して、5年足らずの間にかほどの素養を身につけたという事実には、ただただ舌を巻くばかりですね。


<今後に向けて>
現状においては、何も指摘することはありません。心技体すべてにおいて特級の資質を有することに疑いはなく、過去に幕下以下の記事で書いた記憶は全然ないのですが、この人に関してはハッキリ大関以上を目指すことのできる超逸材であるということを断じてしまっても構わないでしょう。

この一年でまた一回りも二回りも強くなり、いよいよ九州では初の一桁枚数へと躍進。十両の舞台に手が届く時機もそう遠い先の話ではないだろうなと予測しています。

力真樹 出身:熊本 生年:平成7年 所属:立浪 身長:190センチ 体重:152キロ

<プロフィール>
デビューは23年夏の技量審査場所(新しい相撲ファンにはもはや死語か 苦笑)。28年九州で一足早く新十両昇進を決めた明生とは同部屋同期、同じ叩き上げの環境から切磋琢磨して、地位を高めてきました。
26年7月、新幕下昇進の場所で全勝優勝を果たし、急ブレイク。はじめて明生の番付を抜き去り、一気に十両にまで駆け上がるかと期待されましたが、その後は上位の壁や膝の怪我にも苦しみ、幕下中ほどの地位を往復。
28年に入り、5月に漸く10枚目以内の番付で初の勝ち越しを決めると、7月4勝、去る9月も初の5枚目以内で5勝をあげるなど、上位の水に慣れ、いよいよ関取近しの印象を強めています。
来る11月場所、地元九州にて十両昇進当確の星をあげ、場所後の巡業を「凱旋」の旅路と出来るでしょうか。


<取り口>
基本的には、立合い、リーチを生かしたもろ手、もしくはもろ手を当てながら頭でもかましていく形から、突き放して一気に相手を持っていく(この際の腰の下り具合も見事)出足相撲なのですが、幕下中ほどで苦労していた時期とここ数場所を比べて、物凄く出足がついたとか馬力が増したとかいう印象はなく、実際、去る9月場所でも、真骨頂とするもろ手突きからの目覚ましい出足相撲を見せたのは1番目の相撲のみ。
それ以上に目立つのは、立合い当たってから次の動きが非常に素早くなった点。立合いで先手を取りやすいというもろ手突きの効用を生かして、二の矢で反応良く先手先手と動く仕掛けの鋭さが幕下上位クラスの相手をも翻弄し、首尾よく勝ち星に繋がっているように思います。

ここからは想像ですが、同部屋で長らく出世を競い合っている明生、天空海、竜王浪などは、いずれも正攻法というよりも卓越した瞬発力や相撲勘、あるいはいわゆる「手取り」の上手さなどによって相撲を取っていくタイプ。彼らが同じように力をつけてきて、普段からの稽古に取り組んでいるということは、まあ普通にもろ手から持って行こうとしても簡単には出られません(逆に言えば、明生らも力真の鋭いもろ手突きを受けているからこそ、立合いの圧力、簡単に持っていかれない重みというものが出てきたのでしょう)。
それに負けまいとすれば、自ずと立合いや二の矢での動きにも俊敏性が出てくるでしょうし、立合い上手く圧力を透かされたり、低く入られて上滑りするような形になった後の「持ち直し方」にも磨きがかかるはず。

…で、そうした反応の機敏さによって二の矢を制し、勝機を掴んでいたのが7月あたりの相撲だとすれば、9月はもう少し策戦的なこともやっていて、それが琴勇輝あたりも偶に使う、もろ手を当てつつ、少し左にずれるような出方。左前廻しを得意とする相手の廻しを遠ざけつつ、自身も得意とする右四つ左上手の形を先に作りたいとか、下から跳ね上げてくる相手の構えをまともに受けたくないとか色々狙いはありそうですが、ともかく重要なのは先手先手の動きで相手を崩していくこと。
190センチ越えの身長に150キロ以上の体重の堂々たる体力があり、なおかつ相手のこともよく研究できていますから、多少強引な動き方でも穴になることは少なく、また機先を制して動くことによる余裕から、投げを打つにせよ、いなすにせよ、体をしっかりと開くことができる=まともに呼びこむ形が少なくなり、もろ手で出る力士が跳ね上げられ、距離を詰められたたところをたまらず引いて自滅するという、ある種典型的な負けパターンはここ数場所で激減しています。


<今後に向けて…>
「これぞ」という勝ちパターンがあるわけではない取り口だけに、あまり見栄えはしないかもしれませんが、上記した通り、稽古の量と質に裏打ちされた、立合いで器用に先手を取りつつ、懐の深さ、幕内上位級の体力を生かし、自分の距離を維持しながらダイナミックに仕掛ける相撲は理にかなっており、相手からすれば明確なパターンが存在しないゆえに掴みどころが乏しく、なんとも捉えがたい印象を与えているのではないでしょうか。
幕下中上位で叩かれてきた経験あっての、非常に実戦的な取り口だと思いますし、これはこれで大いに個性として磨き上げてもらいたいもの。
その中で、一層の出足強化や右四つに組んだ際の細かい技術等も高めていくことができれば、いずれは万能型の大型力士として、三役以上の地位が狙えるし、またそうでなくてはならない素材です。

左膝に慢性的な不安を抱えていることもあり、将来的には四つ相撲をメインに持ってくる方が安定するのでは…などとも感じますが、まあそれはずっと先のこと。今後も折りに触れ、話題に挙げる機会は必ずある人ですから、今の時点でどうこう書く必要もないでしょう。

残り3日間は、十両-幕下間昇降に関係した一番から幾つかを抜き取って時系列順に紹介します。


13日目
竜電(寄り切り)若乃島
勝ち越し目前から3連敗中の竜電、この日は入れ替え戦的な割が組まれましたが、それゆえの「向かっていく立場」ということ、さらに相手も一門の兄弟子で、恐らく一門の連合稽古において胸を借りたり、三番稽古をしたりという機会も多いであろう 若乃島との対戦というのが、案外良い方向に働いたかもしれません(立合いで飛んだり、二の矢でかき回しに来る相手でもないですからね)。
立合い、右前廻しを狙って鋭く踏み込み、やや後退しかけるも、若乃島がやや腰を引いて廻しを切りに来たところで、突き放しにかかり逆襲。しっかり顎をつけ、相手を正面に据えながらの突きで上体を起こしてから右上手に手をかけ、素早く引きつけながら左でも絞って二本入ろうとする相手の狙いを阻止。
若乃島がたまらず左下手から振るのにもよく足を運び、最後は左も前廻しに近い位置を引いて拝むように正面へと寄り切った。


14日目
力真(寄り切り)坂元
坂元(西3枚目 4-2)は、この一番に勝てば昇進優先順位で小柳・山口・大翔鵬に次ぐ4番手が確定するも、敗れれば6~7番手まで落ちてしまうということで、やはり動きが硬かった。
一方の力真は最高位で既に勝ち越しも決め、十両昇進の可能性は勝っても僅かしかないという状況ゆえ思い切って相撲が取れたのではないか。
合わせづらい坂元の仕切りで一度呼吸が合わずも、惑わされることなく素早く立ってもろ手を当て、相手の左前廻しも警戒しながら、右で押さえるようにしつつ左にずれ加減、少し引いて崩し、左で大きく上手に手を伸ばすと、引きつけざま、一気に赤房へと攻め寄せ、最後は上手を離しての詰めで、坂元に残す腰を与えず攻め切った。

今場所の力真、真骨頂でもある、もろ手突きからの目覚ましい出足相撲を見せたのは1番目の相撲のみではありますが、先手を取りやすいというもろ手突きの効用をよく生かし、相手の取り口も研究した上で、反応良く先手先手と動くので、多少強引でも勝ちに繋がり、最高位である5枚目以内の番付においても大いに通用しています。


明生(押し出し)朝弁慶
東3枚目、3-3の星で入れ替え戦的要素を含む一番に登場した明生。
この日が大銀杏を結い、十両の力士と対戦する初めての機会だけに、普通ならばガチガチになってしまうところですが、そうならなかったのはこの人本来の卓越した勝負度胸所以。
しかも、ただ真っ向から自分の力を出しきるというのではなく、恐らく5日目に旭大星が蹴手繰りを決めた相撲も観ていたでしょう、左足から出る朝弁慶に対し、左に動いて崩せば勝機が広がるというのも十分に考えた上で、思い切り良く実行に移す。
立合い早く立ち、右手を出して相手を止め、素早くとったりを打ちながら左に開けば、朝弁慶は何も出来ずに、黒房方向へと泳ぎ、最後は押し出しの形で勝負が決まりました。

勝負度胸に加え、反射神経および相撲勘の良さという長所を大いに生かし、勝ちをもぎ取った一番。朝弁慶はこの敗戦によって幕下陥落が濃厚となり、明生が自らの手で昇降3枠目の枠を作り上げました(大翔鵬の新十両が確実に)。


この後、若乃島も十両で優勝争いを演じる琴恵光に敗れ、下1枚で残留絶望の9敗目となったことで竜電の4年ぶり返り十両も濃厚に。
さらに楽日、敗れれば幕下陥落の星となる希善龍が既に昇進濃厚としている大翔鵬に敗れたことで5枠目も空き、明生に新十両の朗報が齎されることとなりました。



…ということで、来場所は新十両3名に、3年ぶりとなる再十両の山口、同4年ぶりの竜電も加わって、連日、非常に活発な土俵が展開されそう。今場所は幕下の土俵を観てきたので、次は十両…ということにしてみようかななどと考えています。

↑このページのトップヘ