土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2016年11月

稀勢の里寛 出身:茨城 生年:昭和61年 所属:田子ノ浦 身長;187センチ 体重:175キロ タイプ:左四つ左腰型 

<立合い分析>
27年の終わりごろから、特定の相手に対して左踏み込みから左おっつけを生かす立合いを久々に使い始め、従来的な右足で踏み込んで左差しを狙う立合いとの併用は一定の効果を齎していると言えるだろう。
色々言われることが多いものの、28年秋に宝富士が立合いの角度を胸→頭に変更すると、同九州では自らも立合いの角度を低くかますように立っていくなど、相手に関する研究も少なからず出来ている方で、28年春・夏と連続であげた13勝にはその成果がよく現れていた。
ただ、相手側からの研究も相応に進んでおり、名古屋・秋と出足の逆側に変化されると大きく崩れ、九州での再戦では前回変化された残像が残っていたのか、中途半端な立合いで敗戦を招くなど、「戦術負け」による取りこぼしへと繋がっている。
言い換えれば、自分十分の立合いに関するイメージ作りには成功している反面、相手に意表を突かれ、先手を取られた場合における準備の不足が目立つので、新年はこの点をより突き詰めていくことができるかどうかに注目していきたい。

踏み込み足:立合いにまず左おっつけを生かしたい場合は左足 左を差したい場合は右足 
手つき:相手によって変えており、ざっくり書くと、先に両手を下ろすような相手には後から腰を割ってサッと両手を下ろすし、立合いの遅い相手には先に仕切って相手を待つことが多い(手つきは右→左の順)。
呼吸:上記の通り、広い意味では相手に合わせているのだけど、個別の勝負においては相手との呼吸自体を合一させているわけではないということになる。
それでも以前と比べれば指弾すべきような立ち渋りは目立たなくなり、立合い不成立の数自体も減っている。


☆立合い技一覧

左おっつけ
3横綱はじめ、照ノ富士、琴奨菊、栃ノ心、栃煌山ら右四つ、ないし右四つのメカニズムにて左足から踏み込んでくる一部の力士に対して用いる。
左足で小さめに踏み込み、かましながら、右で相手の肩口や喉元を押さえつつ左おっつけで挟み付け、左を差し勝つ狙い。28年九州はいずれもこの立合いから最大の武器である左おっつけを利しての展開にて3横綱を連破した。
また、碧山、琴勇輝らもろ手から突き放してくる相手に対しても効果的で、右の突きを左おっつけで外して攻略の起点とする。頭から出て来られると多少厄介だけれど、③の張り差しを併用し、意識させることで立合いの突っ込みを軽減させている。
上記した力士以外には殆ど用いないのが不思議なところで、もっともっと使う頻度を高めても失敗をすることはないだろうと感じているゆえ、頻度自体では落ちるこちらの型を①に据えている。
このあたりは、いずれ対戦相手別の記事にて精査したい。

左差し
右足で踏み込み、左を固めつつ左肩で当たって左を差さんとし、右で抱えるかおっつけるかしながら、じわじわと得意の左四つを作っていく。宝富士らスンナリ左四つに組める相四つ力士をはじめ、妙義龍らハズ・おっつけを交える押し相撲タイプの相手、魁聖ら喧嘩四つで出足負けも差し負けもしない自信のある相手に対して用いる。
どうしても立合いで受け加減になるため、計算を違うと28年九州で遠藤の出足に一蹴されたようなことが起きうるし、隠岐の海や正代のような両差し狙いの相手には右からの攻めが高く、締め上げが利かないと全然余裕がなくなり、そうしたときに無理やり挟み付けて出ようとする玉砕的な取り口で墓穴を掘りかねないため(28年秋、九州での敗戦がその流れ)、28年春・夏くらい踏み込みが安定して腰がブレず、コンディションの安定している時ならばともかく、右足首痛で右の攻めが弱く、左肩の不安で左の利きが悪かった同秋・九州では、不足感のほうが目立ったことは否めない。
また、この立合いで両足跳びを用いる場合もあるが、あくまで左を固め、じわじわと左四つに持ち込む構想の上でならば安定しやすいため、問題とは思わないし、この立合いを選択している対戦相手(あまり出足のない四つ相撲など)にも概ね誤りはない。

張り差し
右で張って左差し狙いの型。一時は乱用に近いほど多く用いていたが、いつの頃からかすっかりと減り、また27年頃からしばしば使うようになっている。
対象としては、①でも書いたとおり、かましてくるタイプの突き押し相手が大半で、以前よりも右手の振り抜きが小さく、左を差すにおいての体の寄せも素早くなるなど精度は向上している。戦術の幅を拡げる意味でも、四つ相撲相手に用い始めたとて、そう疵にならなさそうだが… 

鶴竜力三郎 出身:モンゴル 生年:昭和60年 所属:井筒 身長:186センチ 体重:155キロ タイプ:万能型

<立合い分析>
何でも水準以上に出来る人といったところか。白鵬の多芸さや奇抜さ、日馬富士の瞬発力はなく、体格に恵まれているわけでもないにも関わらず、基本に忠実な低い踏み込みと、現代相撲に必要なそれなりの引き出しを揃え、最高位へと上り詰めた姿勢は多くの力士にとって見本となる。
28年は立合い正常化の波に呑まれ、再三手つき不十分を指摘されるなど苦悩を味わったが、徐々に適応し、納め場所での優勝へと結実させた。
踏み込みの際、ややかかと重心でつま先が上がるようになってから踏み込む癖ゆえ、ときに立ち遅れが生じることもある。 

踏み込み足:左足が主も、右足からの踏み込みも比較的多く、上位では稀勢の里と並ぶ両足併用型
手つき:相手の手つきに合わせ、素早く両手を下ろす
呼吸:駆け引き次第で変わる面もあるが、基本的には先に相手に手をつかせたい 


☆立合い技一覧

ぶちかまし
横綱鶴竜の土台を成す基本の型。左足踏み込みから、角度よく相手の額や右(左)胸周辺へと額をぶつけ、28年九州が如き好調時には「いざっ」という声が聞こえそうなほどに小気味良く手足をはじめとする全身の諸動作が連動し、軽やかなる二の矢の攻めへと移っていく。
突き押しの相手には突きに転じたり、おっつけやハズを交えて押し上げたりし、四つの相手には押し上げたところから浅く前廻しを探ったり、モロ差しを狙ったりというのが主なパターン。
②以降の立合いにも通じるが、28年秋のような不調時には腰が浮いて上体が起き、突いていくにも手の動きが上から下になりがちで圧力が伝わりきらず、自分の間合いを取りきれないまま引き叩きに出てしまう。

左前廻し
主に対右四つ専用。左から鋭く踏み込んで前廻しを引き、少し出し投げを打つように相手を崩しつつ右下手も取って両廻しで食いついていく流れ。
腰が浮き加減の不調時には上手の位置が深めになり、合口の良い相手に対しても長引く展開を強いられることがある。また、右四つのメカニズムで踏み込みつつ、鶴竜が左前廻し狙いに来るのを右から引っ張り込むようにする隠岐の海、勢らに懐深く守られると、攻めあぐねて強引に出たところを逆転されることも。

時折、先に右で下手を深く取らんとするため右足から踏み込む場合があり、相手には上手を取られやすいものの、しっかりと相手の下に入って食い下がり、外掛けなどを生かしながら攻めたり、あるいは右からすかさず掬って巻き替えを狙ったりしながら形勢有利を作りにかかる。スパっと左前廻しを引いて組みつく場合と比べ、安定しないと言えば安定しないので採用率は低いが、オプションとしての値打ちは十分。

右前廻し
対左四つ専用。豊ノ島に対して再三用いている印象があり、遠藤や稀勢の里にもしばしば使うことがある。右足で鋭く踏み込んで前廻しを狙い、掴めなくてもしぶとく右からおっつけて浅い位置を狙っていく。
①のようにオーソドックスな左足踏み込みから右四つ狙いに出たり、突き起こしたりというパターンと併用することで戦術の幅を拡げることができるが、28年以降はあまり用いていない。

張り差し 
特筆すべきはないが、技巧派らしく左右どちらからでも出せ、小さく張って相手の内側から腕を差し入れ素早くモロ差しを果たして次の流れに展開していくスピードは見事。決して相手を痛めつけようというような質ではない、張り差しらしい張り差しだ。

もろ差し 
当然というべきか、井筒部屋伝統の張りを伴わない、肩から入っていくようなモロ差し狙いも具えている。


この他、日馬富士のように左喉輪から入って、右おっつけを合わせる左四つ対策、嘉風らに用いる右かち上げ気味の立合い、もろ手の相手に跳ね上げるように立つ方法など数多く具えるが、今回は割愛する。
なお、27年秋場所にて再三用い批判の的となった立合いの変化については、不調の場所でもすっかり封印しており、来年度分では全く触れる機会がなくなるよう望みたい。 

日馬富士公平 出身:モンゴル 生年:昭和59年 所属:伊勢ヶ濱 身長:186センチ 体重:137キロ タイプ:右四つ左腰 突き押し

<立合い分析>
低さ、スピード、鋭さなどの表現で語られることの多かった日馬富士の立合い。今も原点とする型に変化はないが、齢30を越え、場所ごとの自己の体調や相手の取り口に沿った現実的な処し方を身につけたというべきか、数パターンの使い分けによって安定感ある土俵ぶりを展開している。 

踏み込み足:右足 まれに左及び両足跳びも採用
手つき:相手の手つきに合わせ、素早く両手を下ろす
呼吸:駆け引き次第で変わる面もあるが、基本的には先に相手に手をつかせたい


☆立合い技一覧

ぶちかまし
右足で鋭く踏み込み、額で相手の額、頭以外で当たってくる相手には右胸周辺にかまし、その勢いで腕を伸ばし、右喉輪左おっつけで押し上げるか、突き放しに転じて張り手などを交えながら攻めかからんとする構えは、横綱日馬富士にとっての基本となる型であり、その取り口における根幹とも言える。力んで上半身だけが突っ込むように立ってしまうケースがあるのは玉に瑕。

右喉輪左おっつけ 
①と似ているが、より自身と相四つにあたる右四つ左前廻しを狙う相手に対する専門的な意味合いとして分類した。
魁聖、栃ノ心などが典型的な対戦相手で、リーチがあり胸や肩といった高い位置から受けるように当たって来る分、踏み込みの角度をやや高めにおいて、右喉輪で上体を起こしつつ、左からのおっつけで相手の右差しを殺し、攻め上げる。
力任せな喉輪押しに頼り過ぎると、足が遅れて左から外されたときに危機を招くものの、ひとまず先手をとって起こしておくための方法として使えば、その後横から崩すなりしてからの左上手、相手には上手を許さない形で組み付くことが容易となり、こうなれば多少時間がかかることはあっても有利は揺るがない。
時折④の日馬富士スペシャル(後述)を使い、立合いに変化をつけておくことで、相手は狙いが絞りづらくなり、いっそう効き目が増すこととなる。

左喉輪右おっつけ 
②の対照となる、主に対左四つ力士対策の立合いで、稀勢の里、遠藤、豊ノ島らに用いる。
本来得意とする右喉輪左おっつけの構えとは逆になり(つまり相手の左胸周辺に額をぶつける形)、自然な流れと異なる分、精度にややバラつきがあり、出足が遅れることもあるため、柔らかい豊ノ島あたりには何度も外され苦杯をなめたが、きっちりハマれば28年九州での遠藤戦のように、右の踏み込みと右おっつけが綺麗に噛み合って、抜群の出足を齎す。

日馬富士スペシャル
頭で当たりながら右で相手の肩口あたりを押さえつつ、左へ大きく動いて上手(後ろ褌あたりを取ることが多い)を掴み、(右で膝を払いながら)出し投げ気味に放り捨てる。
本来の鋭い出足があるからこそ相手としては予見しがたく、また頭で一つかましながらの仕掛けである分、より効き目がある。稀に大きくバランスを崩して自滅することもあるが、仮に最初の投げで決まらずとも、得意の左上手から連続して技が出るので、立て直しは利きやすい(流石に白鵬クラスが相手となると厳しいが)。
仕掛けやすい相手としては、左に動く特性上、左足から出ることの多い右四つ力士や、左四つでも左から出るタイプの琴奨菊、隠岐の海など。 

張り差し
これも決して頻度が高くないからこそ決まりやすい立合いで、右四つにも左四つにも、突き押しの出足を止めたい場合にも使う。左で張って右差しないしもろ差しを狙うパターンが数多く、流れの中ならばともかく、立合いで右から張るケースはあまり記憶にない。出足がある相手とタイミングが合ってしまえば一気に持っていかれる危険性があるのはやむを得ないところ。

前廻し 
①の要領で低く鋭く踏み込みながら、前廻しを狙う。左を狙い、引きつけておいてからの右前廻しで拝み寄らんとしたり、左手をハズに当てるようにしながら、右前廻しを狙ったり、逆に右で押さえながら左前廻しを狙ったり(これは④と似ているが、その後の大きな変化を伴わない点で差異がある)と、相手の四つや立合いに応じ、複数のパターンを有するゆえ、詳細は取組別の展望にて触れることとする。
②や③の立合いと併用することにより、その低さで相手の意表をつき、踏み込みが十分に利けば、相手に何もさせぬまま土俵の外へと吹っ飛ばすだけの迫力がある。
立合い、右(左)足で踏み込みながら左(右)の前廻しを探る立合いは、他に幕内以外での使い手は千代翔馬くらい。それだけの瞬発力がなければ成立し得ない高度な戦術と言える。

⑦挟み付け
ぶちかましの延長線上とも言えるが、たとえば片方をハズ、もう片方をおっつけるなどして挟みつけ、相手の動きを制限する。
⑥同様、幾つかのパターンに分かれ、分類が細かくなりすぎるので、詳細は取組別の記事にて検証することとするが、使い道としては、豪栄道、嘉風、松鳳山ら前後左右への動きが激しく素早い人たちを自由に動かせないための方策として有効となる。ただ、相手もスピードがあるだけに、当たりにせよ、二の矢での動きにせよ速く動かれてしまうとコンディション次第でバタつく場合があることは否めない。


この他、対隠岐の海にて時々用いる左にずれて左を深く差し込む狙いなどもあるが、今回は割愛する。

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