土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2019年01月

式秀部屋
時津風部屋の元小結大潮は、昭和63年初場所限りで引退して8代式守秀五郎(以下式秀と記す)を襲名。4年後の平成4年に時津風部屋から独立して式秀部屋を創設した。
長く関取を出せずにいたが、停年を1年後に控えた平成24年春場所でモンゴル出身の千昇が20年目の悲願成就。そして、25年1月に8代は退職し、一門外の26代小野川(北桜)が後継者(9代式秀)として新たな舵取りを担うこととなったのである。
※小野川が時津風一門へ移るのではなく、式秀部屋が出羽海一門へと参加する形。


継承から6年ほど経って、先代以前から在籍した力士は4人(若戸桜・潮来桜・宇瑠寅・澤勇)にまで減少。長く部屋を引っ張っていたモンゴル出身コンビ(千昇と大河)の引退と入れ替わるように27年頃から新弟子が増え始め、継承前に二桁を切っていた在籍数は今や20名前後で推移するまでになった。
学生出身や高校相撲の強豪といった相撲エリートは不在で、当代以降は外国籍力士の入門もない。未経験ながら自ら志願して飛び込む力士も多く、部屋頭の163センチ爆羅騎をはじめ170センチ台前半と体格に恵まれない力士も多数。それ故すぐには結果が出ない場合も多いが、全部屋持ち親方中でも随一に明るい師匠の前向きかつ地道な指導によって、勝てずとも挫けずひたむきに前進していく姿勢が着実に根付き、数年前まで目立っていた早期の引退者も居なくなった。
30年は爆羅騎が4年ぶりの幕下復帰。三段目昇進を果たしたり、それが見える位置にまで上がる力士も増えてきて、ゆっくりながらも確かな足取りで全体の底上げが進められている。
今後は、しばしば話題に挙がる精神面のサポートだけでなく、論理立った技術面の指導にも定評がある式秀の手腕がいっそう冴え渡る局面に入っていきそうだ。



主な注目力士
爆羅騎(H6 埼玉 163 108)
入門時に新弟子検査の様子が話題となった異色の短躯力士も、初土俵からはや6年目。
三段目下位での全勝によりデビュー1年で新幕下入りしたが、翌場所は全敗。その後は三段目中位を定位置に一進一退の様相であった。
30年春で都合はじめて三段目一桁の地位に達すると、ここで1点の勝ち越しを収め、4年ぶりの幕下返り咲き。また1場所で陥落した悔しさをバネに今年は再度の幕下復帰と定着を目指す。
いかにも押し相撲向きという体型だが、意外にじっくりと取りたい人であり、勝ち相撲の決まり手でもっとも多いのは寄り切り。おっつけ切れずに差されたかと思いきや、上手を引けばなかなかの小力があり、体を入れ替えるように崩してからの寄り身も三段目中ほどでは通用している。もう一回り体重が増えてくれば、立合いの威力も強まり、取り口全般に好循環を齎しそうなのだが…


西園寺(H6 大阪 171 134)は、顎を引いて前傾姿勢を保ち、頭四つの持久戦も厭わない我慢の取り口でジワジワと最高位(三段目20枚目台)を上げつつある。基本的には辛抱・忍耐の押し相撲型だが、過去にはたすき反りの珍手を繰り出した異能派の側面も。
(H10 大分 168 95)は、出羽疾風を身長・体重ともに小さくしたような筋肉質の体格が目を引く。正攻法の取り口で、まっすぐ踏み込んでの低い押しと食い下がっての下手投げが主武器。三段目定着の地力はありそうだが、意外に序二段上位~中位で苦しんでいる。
先天性の難聴を患うハンデも何のそので奮闘する江塚(H12 静岡 170 87 平成31年春場所よりに改名)は、いよいよ新三段目が目前に迫ってきた。強烈な投げ技に、裾払い・蹴手繰りなどの足技も織り交えての活気溢れる取り口が大いに序二段の土俵を沸かせている。

尾上部屋
元小結濱ノ嶋の17代尾上が三保ヶ関部屋から独立して創設。
高校・大学・角界でも同部屋のライバルとして活躍した肥後ノ海(11代木瀬)とは、部屋持ちの親方としても競い合う関係となっているが、尾上の方が1年半ほど遅く引退(平成16年夏)した関係上、創設の時期は木瀬よりも2年半以上遅い平成18年8月であった。
※木瀬部屋が創設された当時、尾上はまだ現役の幕下力士として相撲を取っていた。
独立の時期こそ木瀬に遅れを取ったが、早くから積極的にスカウト活動を行っていたので、独立時にはのちの大関把瑠都をはじめ、日大相撲部の後輩にあたる里山・境澤・白乃波も引き連れ、翌19年にはやはり日大から南(天鎧鵬)と山本山も入門。学生出身力士の獲得レースにおいては、木瀬に先んじる形勢であった。

状況が一変したのは23年の八百長騒動。境澤・白乃波・山本山が八百長に関与したと認定され、引退に追い込まれると、それ以降は毎年のように1人~2人が入門する木瀬部屋を尻目に、一人も学生出身力士の入門がなく、30年九州をもって里山(22代佐ノ山)が引退したことにより、現役の学生出身力士はいよいよ天鎧鵬のみとなってしまった。

尾上自身の不祥事もあって、しばらくは新弟子の獲得自体遠ざかっていたが、把瑠都引退の翌年(平成26年)あたりから徐々に再開。師匠の母校である熊本・文徳高など高校相撲を経験した力士が多いものの、独立当初は消極的であった叩き上げの採用にも精を出すようになっている。
また、29年には師匠の甥にあたる竜虎、30年には実息の濱洲も入門。いずれも高校相撲の経験を持つ血縁力士たちの今後にも注目したい。




・主な注目力士
竜虎 生年:平成10年  出身:熊本 身長:180センチ 体重:129キロ
上記したとおり尾上親方の甥にあたり、おじの出た文徳高校相撲部出身でもある。
29年1月の初土俵から大きな壁もなく順調に出世。去る31年初場所では西幕下2枚目で4-3と勝ち越し、十両の地位は目の前だ。
関取の中に混ぜてしまえば小柄な部類の体型、上半身の使い方なども比較的ぎこちないのだが、とにかく腰から下の力が非常に強く、力士として天性の素質がある。同初場所、一方的に土俵際まで追い込まれながら左上手・右を首を巻く体勢で上手櫓気味に逆転した一番にはその特徴がよく現れていた。
胸で受けることが多かった立ち合いも、一応頭から行くケースが増え、また張り差し・モロ差し狙い・もろ手などバリエーションも豊富で、変化技も時折用いるだけによく意表を突いている。
相手の出足を利用しながら大きく体を開いて打つ出し投げはスピーディー、30年九州では流れの中で相手の足を取ったが、こんな奇手を扱う際にも、持ち上げて運ぶのではなく「寝る」という極意を熟知したかのような動き方をするのだから、その多芸ぶりや勘の鋭さには驚かされた。
何でも出来てしまうゆえに「型のなさ」を指摘される場面もあるが、あまり脇が固い方ではない面も含めれば豪栄道タイプ、過去の力士になぞらえれば若き日の玉の海(玉乃島)型の大器で、将来的には自ずと固めるべき方向性も定まって来よう。


深海山 生年:平成6年 出身:熊本 身長:180センチ 体重:151キロ
22年春初土俵の叩き上げ。27年9月新幕下、翌九州の東47枚目が最高位で、ここ3年ほどは幕下と三段目の往復が続いている。
立ち合いに突き起こして先手を取り、そのまま押し切るのが理想だが、攻めきれず四つに組んでしまうケースも。腰を入れての投げ技に鋭さがある分、組まれると半身になりがち。
相手を押し込んで仰け反らせてから組み止め、丸い体を生かしての寄りで早く勝負をつける富士東(玉ノ井)のような取り口に進歩していけば、幕下中位以上への進出も難しい話ではない。31年は勝負の年だ。


石田(S60 東京 170 102)は、濱栄光の四股名で長く取っていた部屋創設時からの所属力士。31年春は幕下復帰濃厚とまだまだ気を吐く。宮内(H7 熊本 171 171)は、文徳高校相撲部出身。同期同学年の武将山(藤島)と同じような体つきだが、低さを生かして前に出ていくタイプではない分、出世は遅れ気味。立ち合いに張り差しを多用、上体起き気味に相手を視ながら取る相撲も悪くはないし、払いのけるように捌くいなしの技術にも味はあるのだが、今の若さで味があるところを見せている場合じゃない。やはり幕下入りに向けてはもう一回り以上の攻撃力がなくては。
30年初場所初土俵、1年で三段目中位付近まで上がってきた坂林(H11 富山 174 115)も高校相撲出身者。前に出ながら・或いは相手を崩してから中に入って攻めかからんとする手順は良く、センス・スピード・反射神経の良さが目立つ。31年初場所は最高位で大敗も内容的には悪くなかった。
細かい課題の指摘は来年に回すとして、将来的には序盤の突っ張りもいっそう磨き、松鳳山のように多彩な攻めで相手を撹乱するスピード型の曲者を目指したい。

遠藤×玉鷲
初顔から遠藤が6連勝した後、玉鷲の9連勝中。
遠藤の下半身が安定していて玉鷲の馬力が今ほどではなかった時期こそ、玉鷲の突き放しを下からあてがいあてがいしながら左を差し込んでいくような勝ち味を発揮できていましたが、その後遠藤の怪我や玉鷲の開眼を経て、まともに当たり合う立合いから何ら論点が発生しないほどの電車道で玉鷲が圧倒を続けるパターンが定番化しており、遠藤が玉鷲の経路で相撲を取ることは無謀な状況にさえ感じられます。

遠藤に勝機があるとすれば、いかにその経路を外れ、かつ次の攻めを先に繰り出せるか。
立合いで腰を崩されずに、自分からパパっと突っ張っておいて中に入っていく形や、玉鷲が嫌がって引く展開になれば…というところでしょうか。
14日目には、やはり苦手とする栃煌山戦、両足跳びの立合いからかっぱじき気味に右へいなして機先を制し、回転良く内から手が出ていくような突っ張りで反撃の遑を見いださせぬ快勝ぶり。遠藤がこの内容に手応えを得ているようなら面白いことになるかもしれません。とりわけ突っ張りの質については玉鷲のおっつけ・突き落としを食わないためにも重要になります。


本当は玉鷲目線で書くつもりでしたが、あまりにも圧勝続きで精神面を考察する以外何も書けない状況ゆえ遠藤メインになってしまいました。
せめて上記した遠藤がやってきそうなことへの対応策を書けばいいのですが、勝ち続けている相手への対策はあまり考えすぎない方が良いと思うんですよね。いろいろ書きましたが、実際の遠藤は従来どおり真っ向から左差し右前廻しの立合いを選択する可能性が高いので、玉鷲はいつもどおりを心がけ、立合い自分の呼吸で立つことだけに集中すればいいのかなと。
ほら、面白くもなんともないでしょ(苦笑)




貴景勝×豪栄道については、当然の豪栄道視点です。
勝ち越しを決めて身軽になった豪栄道は「ガツガツ攻める(意訳)」との宣言。たしかに負けているときの内容は、慎重さが仇になり貴景勝のペースに合わせすぎている感が。
足首や胸の怪我にも影響しますから無理な体勢で攻め急ぐ必要はありませんが、豪栄道が貴景勝よりも大きく上回っている点はやはりスピードですから、張り差しなりモロ差し狙いの速い立合いで踏み込み勝って、貴景勝の呼び込むような動きを引き出せるかでしょう。




決定戦用
貴景勝×玉鷲
玉鷲は貴景勝の低くブレない腰から下の安定性に手を焼き、攻略の術を見いだせないでいる。
なんとか貴景勝の球体を土台から揺るがして自分の高さに引き上げたいのですが、その手段やいかに。
本割で決めてしまわなければ拙いというのが玉鷲サイドの偽らざる心境と推測します。


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