土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category:2016年 > 秋場所

残り3日間は、十両-幕下間昇降に関係した一番から幾つかを抜き取って時系列順に紹介します。


13日目
竜電(寄り切り)若乃島
勝ち越し目前から3連敗中の竜電、この日は入れ替え戦的な割が組まれましたが、それゆえの「向かっていく立場」ということ、さらに相手も一門の兄弟子で、恐らく一門の連合稽古において胸を借りたり、三番稽古をしたりという機会も多いであろう 若乃島との対戦というのが、案外良い方向に働いたかもしれません(立合いで飛んだり、二の矢でかき回しに来る相手でもないですからね)。
立合い、右前廻しを狙って鋭く踏み込み、やや後退しかけるも、若乃島がやや腰を引いて廻しを切りに来たところで、突き放しにかかり逆襲。しっかり顎をつけ、相手を正面に据えながらの突きで上体を起こしてから右上手に手をかけ、素早く引きつけながら左でも絞って二本入ろうとする相手の狙いを阻止。
若乃島がたまらず左下手から振るのにもよく足を運び、最後は左も前廻しに近い位置を引いて拝むように正面へと寄り切った。


14日目
力真(寄り切り)坂元
坂元(西3枚目 4-2)は、この一番に勝てば昇進優先順位で小柳・山口・大翔鵬に次ぐ4番手が確定するも、敗れれば6~7番手まで落ちてしまうということで、やはり動きが硬かった。
一方の力真は最高位で既に勝ち越しも決め、十両昇進の可能性は勝っても僅かしかないという状況ゆえ思い切って相撲が取れたのではないか。
合わせづらい坂元の仕切りで一度呼吸が合わずも、惑わされることなく素早く立ってもろ手を当て、相手の左前廻しも警戒しながら、右で押さえるようにしつつ左にずれ加減、少し引いて崩し、左で大きく上手に手を伸ばすと、引きつけざま、一気に赤房へと攻め寄せ、最後は上手を離しての詰めで、坂元に残す腰を与えず攻め切った。

今場所の力真、真骨頂でもある、もろ手突きからの目覚ましい出足相撲を見せたのは1番目の相撲のみではありますが、先手を取りやすいというもろ手突きの効用をよく生かし、相手の取り口も研究した上で、反応良く先手先手と動くので、多少強引でも勝ちに繋がり、最高位である5枚目以内の番付においても大いに通用しています。


明生(押し出し)朝弁慶
東3枚目、3-3の星で入れ替え戦的要素を含む一番に登場した明生。
この日が大銀杏を結い、十両の力士と対戦する初めての機会だけに、普通ならばガチガチになってしまうところですが、そうならなかったのはこの人本来の卓越した勝負度胸所以。
しかも、ただ真っ向から自分の力を出しきるというのではなく、恐らく5日目に旭大星が蹴手繰りを決めた相撲も観ていたでしょう、左足から出る朝弁慶に対し、左に動いて崩せば勝機が広がるというのも十分に考えた上で、思い切り良く実行に移す。
立合い早く立ち、右手を出して相手を止め、素早くとったりを打ちながら左に開けば、朝弁慶は何も出来ずに、黒房方向へと泳ぎ、最後は押し出しの形で勝負が決まりました。

勝負度胸に加え、反射神経および相撲勘の良さという長所を大いに生かし、勝ちをもぎ取った一番。朝弁慶はこの敗戦によって幕下陥落が濃厚となり、明生が自らの手で昇降3枠目の枠を作り上げました(大翔鵬の新十両が確実に)。


この後、若乃島も十両で優勝争いを演じる琴恵光に敗れ、下1枚で残留絶望の9敗目となったことで竜電の4年ぶり返り十両も濃厚に。
さらに楽日、敗れれば幕下陥落の星となる希善龍が既に昇進濃厚としている大翔鵬に敗れたことで5枠目も空き、明生に新十両の朗報が齎されることとなりました。



…ということで、来場所は新十両3名に、3年ぶりとなる再十両の山口、同4年ぶりの竜電も加わって、連日、非常に活発な土俵が展開されそう。今場所は幕下の土俵を観てきたので、次は十両…ということにしてみようかななどと考えています。

今場所、これだけじっくり幕下を観察しているというのは、当然場所後の有望力士特集に流用する気まんまんということなので、10月中には何人かの追記分も含め、久々に大量アップの運びとできそうです。また年明けに新年度分のランキングも考えなきゃいけないですから、まあ最低でも5力士、多ければ(追記分も含め)二桁には乗せたいなと。


12日目
幕下
貴源治(寄り切り)芝
貴源治という力士のここ数場所で凄く良くなっている部分については、場所途中にも書いた通りなのですが、さらに補足すると、立合いでの上体の力みもよく抜けており、突っ張りに行く手の手数・重み、引き手の速さも良し。
実力者芝が懸命にあてがいながら右で前廻しを探ろうとするところ、頭で数度当たり直すあたりもアクセントになっっていましたし、芝が右を引っ掛けかかったところで右四つに組み合った後も上手とその後の引きつけ・攻めが早く、寄り方もがぶってがぶって出ましたから、重い腰を持つ相手でも残しきれなかった。
左四つ時の方がやはり型自体は綺麗なのですが、相手も右四つは不十分、とりわけ右半身加減では殆ど仕事のできない人ですから、前捌きの攻防に持ち込まれる前にドンドン仕掛けていくことができたのが勝因と言えるでしょう。
先場所全勝対決で当たり、何もさせてもらえなかった相手に完勝と言える内容で収めた勝利は格別のはず。そして、いよいよ来場所は15枚目以内で相撲を取ることとなりそうです。

十両
小柳(押し出し)富士東
小柳は、今場所で言えば、魁戦と同じ立合い。右はかち上げ気味に固めながら、左を差そうとする構えから、富士東が振りほどくようにするところを前進。腰を落として向正面に追い詰めたところも、一気に出られないと見るや攻め急がず、逆に富士東が突き返すのを受けるように宛がうと、下から入って今度はハズにかかる格好での詰め。富士東が引いたというよりはそうせざるをえない状況に追い込んで白房方向に詰め、押し出した。

…ということで大いに苦しんだ場所でしたが、人間万事塞翁が馬。自分を信じ、貫いた結果として、最後には「誕生日での新十両決定」というご褒美が待っていましたね。良い結果が出たからこそ言えることですが、本人にとっても、本当に得るものの大きい場所だったのではないかと想像します。


13日目
序ノ口
お馴染みの元幕内舛ノ山が復帰場所で貫禄のV。ただ、今日の相撲を観る限り、まだまだ「復活」への道は半ばにも至らず…という感はあり、本人、周囲ともに不断の努力でさらなる巻き返しを図る来場所以降となりそう。

序二段
「連覇」を狙う元三段目上位の周志と夏場所デビューの倉橋が楽日決定戦。

三段目
全勝の一角千代の海が1敗出羽鳳に敗れ、勝ったほうが優勝となった一番。先場所の序二段優勝木崎は休場明けの幕下経験者霧馬山戦、徹底して体を離し、廻しを与えぬ展開から、ややお互い見合うようになったところ、よく相手の動きを見て、急襲。隙を突かれた霧馬山がまともに受ける格好になったところを逃さず押し出して「連覇」を達成した。


幕下
山口(押し倒し)玉木
玉木は、この日も立合いの当たりは良いのですが、6番目のときに書いた「足の送り」に関する課題が如実に現れてしまった。とりわけ、山口のような回り込みが速く、上手い相手と組まれれば、どうしてもその差-山口は横への動きをつけるにも、常に足が揃わず、連続攻撃へと繋げていく「運び」になっているのに対し、玉木は跳ぶように動き、足が揃いながら押そうとする-が浮き彫りで、この日の勝敗を分けることとなりました。


※十両-幕下昇降関連については、13日目~千穐楽分として、後日更新します。

優勝争い、昇進争いが佳境を迎えつつある幕下の土俵から数番を。

※東西を問わず、勝利力士を左に記載する

魁渡(押し出し)福轟力
魁渡という人は、デビュー2年ほどで順調に幕下の中どころまで上げてきたときは、とにかく引き叩きの相撲が多かったのですが、膝の大怪我をして序ノ口まで落ちた後に復帰して以降は前に出るようになりましたね。
それでいて、復帰わずか5場所で今場所久々の幕下に戻り、この日の勝ちで5勝目としています。
立合いはモロ手、あるいはモロ手を当てながらかち上げていくように体をぶつけて相手を起こそうとする形が多く、当たる位置としては高めなので、この日も突き押しの福轟力相手に最初ちょっと攻められるのですが、少し相手の突きをずらすようにしながら向正面に動き、宛がう構えを作ると、下から下から手を出して逆襲。突っ張りに転じてドンドン手を伸ばし、足の運びも良く、黒房へと迫って一方的に押し出しました。
178センチという上背からしても立合いできれば頭でいければ…というところではあり、放送でも若藤親方からそういう話が出ていましたが、この点、幕下上位を見据えた次のミッションとなるのでしょうね。


玉木(送り出し)南海力
全勝対決第1戦は、新幕下の近大出身玉木とベテラン南海力。右四つ半身でしぶとく、突き放しに重心を低く対応する上手さもある南海力に対し、新鋭玉木がいかに挑むかでしたが、その前に玉木という人の取り口に触れておくと、立合いもろ手を出しながら頭でもかます、いわゆる「三点突き」の形が実に綺麗で、頭と手がほぼ同時に相手の顎と肩口をとらえるので、非常に威力をもって相手の上体を起こさしめ、二の矢で突き放す腕もスムーズに伸びていきます。
惜しむらくは、この際体質的な問題か足があまり出ずに、つっぱり加減になるので、一気に押しこむような形が取りづらいこと。しかし、その代わりに、鋭い当たりで起こされた相手にもう2・3発上突っ張りを入れつつ、攻め返そうとする出鼻、足が揃うところでいなしを入れて泳がせる(左を開くパターンが多いです)という独特の「崩し方」を持っている。180センチで140キロくらいという、大きすぎず小さくもない、筋肉質で動きやすい体型もあいまって、デビュー以降、叩き・引き・あるいはそこからの送り出しという勝ち方が非常に多く、スピード出世を後押しする要因ともなっています。

この日の南海力戦も、決まり方は上記の通り。前の一番の双大竜にせよですが、右四つの中でもとりわけ右を差したいという人なので、押し込まれた後、右を差さんと右足・右肩を出そうとしたところで左を開かれると余計にバッタリ来やすいという面もあったでしょう。
玉木自体、それを意識して…というよりは、若藤さんの解説通り、右に動くのが自分の流れなのだと思いますが、常識的に考えて、左から出ることの多い右四つ力士の方が喰いやすい立合いと二の矢ですから、今後そのあたりを研究されてきたときにどうか…という面も感じつつ、今場所BS中継の映る位置で常時観られることができて、確かに初見では泡を食いやすい取り口だなあということに気づきました。


山口(肩透かし)勝誠
もう1番の全勝対決。立合い山口は右で張って左を差し込むと素早く体を開いての肩透かしを引き、しぶとい勝誠をあっさりと仕留めた。2場所連続の6戦全勝。7番目の相撲に先場所のリベンジを期す。

大翔鵬(はたき込み)竜電
はじめて5枚目に進出した昨年秋以降、何度ももう一歩まで迫りながら十両昇進を逸してきた大翔鵬(西筆頭)。場所前のランキング記事でも、「ここぞ」の一番で、持ち味とする思い切りの良さが生きないのは残念…というような旨を書いたのですが、この日は相手も4年ぶりの十両復帰に向け、3連勝スタートの後、ガチガチになって連敗を喫している竜電(西2枚目)ということで、仕切りのときから冷静に相手のことを観察できていたのかもしれない。立合い、右に大きく動き、飛ぶようにしながら相手の頭を押さえつけると、竜電は懸命に残そうとするも足がもつれ、股関節も広がって尻もちをつく無念の敗戦。
決して褒められた内容ではないとはいえ、自身の置かれた状況・および愚直に踏み込んでくる以外のことはしない対戦相手を思えば、今回ばかりは「よくぞ動いた」という評価をしてもバチは当たらないはず。まだ確定とはいえないものの、精神的にも随分楽になったでしょうから、もう1番ぜひとも勝って、文句なしの昇進を決めてもらいたいですね。

一方、敗れた竜電。その心境を慮れば硬くなるのも無理はないし、4日目に3勝目をあげて以降勝てない現状は辛いと思いますが、どれだけ考えたって今日の大翔鵬のような相撲を取れる力士ではない。
しかし、どこまでもひたむきな人です。苦しくて苦しくてたまらないとき、最後に至るべきは、泥の中で築き上げてきた渾身をもって前に出る自分の相撲を信じ、取り切ること以外にはないでしょう。最後の一番、おそらく十両との対戦になりそうですが、良い相撲で最高の締めくくりが出来ることを願っています。


小柳(寄り切り)出羽疾風
3連敗後連勝と盛り返した小柳。取組前のレポートで紹介された本人のコメントが殆ど5日目付の後半に記した内容とかぶっていたのには思わず笑みも出てしまいましたが、ともあれ、落ち着きを取り戻しさえすれば、この地位であっても、そうそう負ける力士ではない。
「相手なりの相撲を考えず、自分の相撲を」というコメント通り、ガチガチ右四つの出羽疾風相手にも、竜勢戦のような立合いはせず、右で強烈にかち上げ、左おっつけから、右を押しつけつつ、左を覗かせて前に。差し込んだ左を返しながら東に迫ると、回り込もうとした出羽疾風の足が土俵を割り、圧勝でとうとう星を五分に戻しました。
技術的に言えば、この一番、前の魁戦と、「左の差し手も十分に返るんだ」というのは新たな発見で、幅の広さを一層担保する長所になっていきそうかなと。

そして、明日にはもう十両昇進をかけた7番目の相撲-富士東との入れ替え戦(的要素が含まれた取組)-が組まれました。。緊張するなというのが無理な話ですが、相手も長く守ってきた関取の座を明け渡しかねない状況です。苦しいのは同じ、寧ろ相手の方がもっと苦しいはずという心持ちで、どれだけ肩の力を抜けるか。
その模様は、12日目付にて取り上げることといたします。 

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