土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category:力士別分析 ま行 > 御嶽海

昨日の分量は何かの間違いです(笑)長くなりすぎて幕下の記事を短めの2番しか書けなかったじゃないか。今日はもっと読みやすいサイズで纏めて、後の更新に響かないようにしたいなと思います(たぶん、きっと・・・)


腰から下を落とす
新田一郎『相撲 その歴史と技法』という本に、押しに対する防御策として砂袋の喩えが登場します。
「中身の半分抜けた砂袋が、持つ者の手から下にズレ落ちていくようにすると、相手はこちらを制御しにくくなる」
つまり、上体の力を抜いて腰から下を落とし、相手の力を吸収するような具合。御嶽海の相撲にはそうした安定感が具わっています。

逸ノ城の突進を柔らかく受け流しながら引きに乗じて反撃に出た初日、見ながら立って宇良の当たりを下半身で受け止めた2日目、「(左の前廻しは)下がりですが下がりません」の実況(吉田アナ)にクスッとしながらも、下がりが抜けた反動と右からのあてがいを合わせるようにして大栄翔を這わせる安定性に舌を巻いた3日目と出だし順調。
4日目はやや立ち合いの呼吸が乱れたように見え、上半身に力が入ってまともに引きましたが、下がりながら下半身を落とし込み、片足前の安定姿勢で付け入ろうとする隆の勝の押しを受け止めつつ、一つ前へ仕掛け空間を確保してからの叩き込み(要領としては突き落としに近い)なので、見た目よりは余裕があったはず。
7日目、先場所敗れている阿武咲戦でも、左右のあてがいで阿武咲に十分腕を伸ばさせず、どしっと構え直して、よく視ながら先場所とは反対に引き落としで相手を沈めました。

このように高い守備性能で上位者らしい貫禄を示す一方、「初日からエンジンをかけていくのではなく、徐々にエンジンをかけていく(大相撲がっぷり総見令和4年3月放送分より)」という本人のコメント通り、6日目明生・中日豊昇龍戦では、うるさい相手を電車道で片付ける攻撃性の高さも発揮し始め、いよいよギアチェンジの段階に進み始めたでしょうか。

5日目の霧馬山戦は、過去立ち合いで変化やもろ手突きなど色々と仕掛けられている分考えすぎたのか、簡単に右四つに組んでしまい、苦杯を喫しましたが、全体としては非常に充実した前半戦、連覇への視界も十分に開けていると言えるでしょう。
新大関といえば、とかく終盤の失速が論われやすいもの。その点、千秋楽に向けてピーキングに自信を見出しつつある御嶽海はどうか。答えは明日からの後半戦に委ねられます。




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御嶽海久司 出身:長野 生年:平成4年 所属:出羽海 身長:180センチ 体重:177キロ 
平成30年版はこちら

<立合い分析>
30年版の纏め部分で「直せるものなら直したい」と記した、先ず左足を小さく出してから右足でサッと出る変則的な立合いが鳴りを潜め、左足をしっかりと一歩踏み込んでいく形が定着。ゆえに、立合いでの腰高は薄まり、右からの攻めも安定、デビュー当初から折に触れて指摘してきた「自分の右から攻められたときの弱さ」にも解消の目処が立ちつつある。
…と思われたのだが、大関取りに失敗した元年九州ではかつての立ち方がにわかに復活。攻めてくださいと言わんばかりに高く甘い右を格下相手にも衝かれ続けた。
これ以前もコンディションの問題ゆえなのか、場所の途中で元に戻してしまうケースはたびたび見られ、後半以降に星を伸ばしきれない不安定な星取りに結びついている。


踏み込み足:上述の通り、左足からの踏み込みが基本型として定着。従来の変則的な立合いは、的が大きく、胸で受けてくるような相手に対して突っ込んでいくときなどに利用している。
手つき:相手によって変えており、ざっくり書くと、先に手を下ろすような相手には後から手を行くし、立合いの遅い相手にはある程度動きを合わせつつ、先に仕切って相手を待つことが多い(手つきは右→左の順)。
呼吸:学生出身ではあるが、大相撲特有の立合いに対する順応も早く、仕切りに入るまで・仕切りに入ってからの動きやスピード等ともに、とりたてて悪い癖は見受けられない(前者において時折遅くなるケースも有るにはあるが)。三役クラス以上の力士では随一に相手との呼吸を適正に(悪質性を帯びることなく)はからんとする意識が見える存在と言えるだろう。


☆立合い技一覧

①ぶちかまし
右で相手の肩や胸を突き、左はハズに宛てるか固めるかしながら当たるのが基本も、相手の特徴に合わせて、さらに細かい分類が可能。

②おっつけ
相手の差し手に合わせ、片方をおっつけ、もう片方はハズや喉輪で横から攻める狙い。左からおっつける場合は、左足から出ることも。

③もろ差し
立合いからまともに二本差しにかかる狙い。挟み付けられる虞は高まる。

④もろ手突き

⑤あてがい
突き起こしてくる相手に対して。あまり踏み込まず、受け止め加減であてがう。

⑥かち上げ
前廻し狙いの相手などに対して。

⑦左前廻し
最近は頻度減少傾向。

⑧立合い変化
頻度は高くない(年に1回あるかどうか)。ここぞで繰り出すジョーカー的戦術。2度の優勝時は、それぞれ苦手相手に1度ずつ用い、貴重な勝ち星に繋げた。



<攻防分析>

相手に応じて突っ張ったり・中に入ったり(ハズなどで押し上げるor二本差し)・四つに組んだりと万能型の取り口を見せる。出るべきか止まるべきか、押していくか突きに転じるかなど、勝負どころの判断にメリハリが利いており、自分の流れで取れているときの強さは間違いなく大関級だ。

腰を伸ばされることさえなければ四つ具合には遜色がなく、体を入れ替えるような投げも左右両方から出すことができる。
攻めていく際の「逃げ場をなくすような足運び」についても、突き押し・右四つ・左四つ・もろ差しいずれの場合であれ良さが損なわれることがないのは素晴らしく、大いに賞賛されていい。

気がかりは2年前に160キロほどだった体重がいつの間にか180キロ近くなり、いくらか前に落ちやすくなっている点。今後重さを生かした取り口に変容していく可能性は低い(適性も高いとは言えない)だけに、少なくともこれ以上の増量は避けたいところだ。


得意技一覧
①突っ張り
相手が突いてくる手の内側から内側からと突けるのが長所。曲者型を中に入れないようする小さめの突きも得意。

②ハズ押し
あてがいから進展させてのもろハズは抜群の精度。片方をおっつけたり上手を引いたりながら割り出し気味のハズ押しで詰める型も良い。

③おっつけ
低く構えてのおっつけで相手の差し手を封じるほか、外ハズ気味に押して、やや上体が上がっているように思えるときでも、腰が決まり、もう片方からの攻めもきちんと噛み合っていれば、傍目で見る以上の圧力で押し込んでいける。

④喉輪押し
しつこく喉輪を当てていくいうよりは、喉元を突き放し、相手を仰け反らせたところをパパっと突いていくなりハズにかかるなりというコンビネーションに用いる。

⑤もろ差し
立合いかましてから、相手を起こしたところでサッと飛び込んで二本差し込む。そのまま密着しながら寄っていけば足運びの良さも生きるし、掬い投げで決めたり、崩しながら出たりすることもある。

⑥いなし
押しの間合いに持ち込んだところから、相手の体勢をよく視て、体形が乱れたところをサッといなす動きも軽妙。肩透かし・引き落とし・叩き込みの決まり手も散見される人だが、いずれも、まともに呼びこむのではなく、余裕をもっていなす動きの延長線上で決まる場合が多い。

⑦巻き替え
四つに渡った際に用いる通常の巻き替えの他に、突きを掻い潜られて差されそうになった際、肘から差し替えていく若羽黒型(現役では阿武咲も得意)も兼備する。

⑧廻し切る
差されそうになれば巻き替えとおっつけの臨機応変な使い分け、廻しを取られれば素早く切るのが突き押し力士に必須の特技。とはいえ、その総てをバランス良くこなすことは簡単じゃない。それができる御嶽海は、やはり当代有数の技能派力士と言えよう。

⑨出し投げ
前廻し狙いの立合いや、おっつけから前廻しを浅く引いての流れで用いる。拝み寄りとのコンビネーションで効果を放つ時期もあったが、体重が増えすぎた影響か最近はあまり見られなくなった。

⑩足運び
「逃げ場をなくすような」とか「先回りするかのように」などと評される巧みな足運びで相手に土俵際の回り込みを許さない。このような足運びが出来るということは、それだけ自分に有利な情勢で攻めに移ることが出来ている所以でもあり、それも含めてのセンス・勘の良さと言い表せるだろう。

御嶽海久司 出身:長野 生年:平成4年 所属:出羽海 身長:179センチ 体重:161キロ タイプ:突き押し・もろ差し

<立合い分析>
基本的には、かましながら右で突くなりおっつけるなりして先手を取りたい人なのだけど、そうした動きを右足からの鋭い踏み込みとともに行うことができず、まず左足を小さく出してから右足でサッと出る変則的な立合いを用いる。必然的に右足は浮き加減で立合いの角度・腰の位置が高くなり(今年のいつだっかは忘れましたが、NHKの中継で相撲に関する様々なデータを取り上げる回があり、その中で「立合いにおける相対的な腰の高さ」という項目の1位となったのは御嶽海でした)、その腰が高いうちに相手に組み据えられたり、突き上げられたところを叩かれたりすると、実にもろく敗れてしまう。
反面、巧みに立合いの間合いを制し、首尾よく右側からの攻めに移ることができた場合は、軽やかに相手との距離感を制御し、相手の内側に体を入れながら素早い下半身の寄せを伴わせた速攻相撲を展開、立合いすぐにペースを掴めないときでも、当たり負けして腰の動きを押さえこまれない限りは、上体の軟らかさや身のこなしの良さも活かし、二の矢の攻防で主導権を握ることができる。
頻度は高くないが、「ここぞ」という局面では思い切り良く立合い変化を繰り出すことも。

踏み込み足:まず左足を小さく出してから右足でサッと出る変則的な立合いを用いる。相手の右差しを封じたい場合などに左足から出て左おっつけを狙ったり、立合いからもろ差しを狙う際や慎重に相手の出方を視たいときなどには両足跳び加減で出ることも。
手つき:相手によって変えており、ざっくり書くと、先に手を下ろすような相手には後から手を行くし、立合いの遅い相手にはある程度動きを合わせつつ、先に仕切って相手を待つことが多い(手つきは右→左の順)。
呼吸:学生出身ではあるが、大相撲特有の立合いに対する順応も早く、仕切りに入るまで、もしくは仕切りに入ってからの動きやスピード等にも、とりたてて悪い癖は見受けられない(前者において時折遅くなるケースも有るにはあるが)。三役クラス以上の力士では随一に相手との呼吸を適正に(悪質性を帯びることなく)はからんとする意識が見える存在と言えるだろう。

☆主な立合い技
ぶちかまし
右で相手の肩や胸を突き、左はハズに宛てるか固めるかしながら当たる。独特の踏み込み方による腰高が難点
おっつけ
相手の差し手に合わせ、片方をおっつけ、もう片方はハズや喉輪で横から攻める狙い。左からおっつける場合は、左足から出ることも。
もろ差し
立合いからまともに二本差しにかかる狙い。挟み付けられる虞は高まる。

<攻防分析>
相手に応じて突っ張ったり・中に入ったり(ハズなどで押し上げるor二本差し)・四つに組んだりと万能型の取り口を見せる。29年九州には互いにおっつけ合う格好から、右四つで豪栄道、左四つで嘉風を下したように、腰を伸ばされることさえなければ四つ具合には遜色がなく、体を入れ替えるような投げも左右両方から出すことができる。
攻めていく際の「逃げ場をなくすような足の運び」についても、突き押し・右四つ・左四つ・もろ差しいずれの場合であれ良さが損なわれることがないのは素晴らしく、大いに賞賛されていい。

☆主な得意技
突っ張り
食いつかれると煩い軽量型の相手などは、かましてからの流れで突っ張って距離を取り、そのまま攻め切ってしまいたい。
もろ差し
立合いかましてから、相手を起こしたところでサッと飛び込んで二本差し込む。そのまま寄っていけば足運びの良さも生きるし、掬い投げで決めたり、崩しながら出たりすることもある。
いなし
押しの間合いに持ち込んだところから、相手の体勢をよく視て、体形が乱れたところをサッといなす動きも軽妙。肩透かし・引き落とし・叩き込みの決まり手も散見される人だが、いずれも、まともに呼びこむのではなく、余裕をもっていなす動きの延長線上で決まる場合が多い。
足運び
「逃げ場をなくすような」とか「先回りするかのように」などと評される巧みな足運びで相手に土俵際の回り込みを許さない。このような足運びが出来るということは、それだけ自分に有利な情勢で攻めに移ることが出来ている所以でもあり、それも含めてのセンス・勘の良さと言い表せるだろう。

<平成30年の見どころ>
デビュー時には典型的な突き押し型かに思われたものの、今やすっかり総合力で勝負する技能派に。
それはそれで良いとして、「もう一つ上」を明確な目標として掲げるにおいては、やはり立合いをいかに強化し、もう一回り二回りの馬力をつけられるか。
独特の立合い(の踏み込み方)に関しては、股関節の怪我が慢性化して、ああいう立ち方にならざるをえないのか、それとも寛解しているのに型だけが染み付いてしまっているのかはハッキリとしないのだが、どちらかの足をしっかりと踏み込んで立つのが理想であることは確かで、直せるものならば直したい。
左足親指の負傷によって、左足から出る立合いを通常よりも増やした29年九州の経験はどのように生きるだろうか。

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