土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category:力士別分析 は行 > 北勝富士

北勝富士大輝 出身:埼玉 生年:平成4年 所属:八角 身長:185センチ 体重:160キロ タイプ:突き押し 右四つ寄り

<立合い分析>
前目の位置に置いた右膝を前に向けた構えから、かましながら、やや左へずれ気味に出て行く立合いが特徴的。
相手の四つ次第ではあるが、基本的には左おっつけ右はハズや喉輪にかかるような体勢で挟み付けて相手を起こし、突くなり押すなり前廻しを引いての寄り身に出るなりの二次攻撃へと進展させていくのが勝ちパターンと言えるだろう。
後述するとおり、(学生出身力士特有の…というべきかはさておき)立合いにはまだまだ甘さがあり、幕内上位で相撲を取ること数場所、巧みに機先を制され当たり負ける、あるいは軸をずらされるような格好で、その圧力をまともに使わせてもらえぬまま破れる場面も目立つように。根が右四つのために引っ張りこまれやすいことなども含め、ここからは浮かび上がってきた課題をいかに克服していくかの局面に入っていく。


踏み込み足:左足 腰を割る際、左→右の順で土俵を踏みしめるようにするのも特徴。
手つき:右→左の順に下ろして立つ。相手が先に手を下ろして待つ場合でも、サッと両手を下ろすのではなく、片方ずつ下ろしていく。
右足を前に置き、膝を前に向ける格好をするため、正面から見た場合、多少右半身加減の姿勢で映ることとなる。また手つきの位置は、そのような手つきの方法ゆえに、やや仕切り線から下がり目を取るのが基本。
呼吸:策戦的なずるさを感じるわけではないが、立ち上がってから腰を割るまで、腰を割ってから立つまでのいずれも遅い方で、改善したい。
後者で言うと、腰を割り、片手を下ろした後(かほぼ同時)に右膝を前に向け、左足を少し引くという動作を入れるため、遅いというのもさることながら、相手にとっては間合いをはかりやすいのみならず、今後はその瞬間(どうしても僅かながらもかかと重心になるタイミングがある)に生じる隙を突かれることも増えそうで、勝負の上において損をすることにもなりかねない。研究熱心な人ゆえ、敢えてその「隙」を逆用するという考え方もあるが、やはり大前提とすべきは立合いはシンプルであればあるほど好ましいという基本姿勢に立ち返ることではないか。

<追記>
31年初場所あたりから、上記<呼吸>の項で記した立ち合いの隙を解消するためか、左足の引きをなくす乃至最小限に留めて、かかと重心にならず立つ形を模索中のよう。
そこに意識が行き過ぎて腰が決まらずに立ってしまうケースも散見されるが、春場所時点においても「改良途上」の感は色濃く、今後のブラッシュアップに期待したい。


☆主な立合い技
ぶちかまし
29年九州は、(左にずれるのではなく)シンプルにまっすぐ踏み込んで突き起こす立合いの修正に取り組み、脇もよく締まり、手も足もスムーズに運んでいく迫力ある押し相撲で大勝ちに繋げた。
左おっつけ
左へずれるように立って、左おっつけ右はハズや喉輪にかかるような体勢で挟み付けて相手を起こさんとする。右四つ(や右四つのメカニズムで立つ)力士が左足から出ようとする立合いに対して用いるのにもっとも適していると言えるだろう。
NHKの中継などでは「おっつけ」として統一されており、「相撲大事典」にも収録されていないゆえ普段は使わないが、相手の脇腹から腰のあたりにピタッと肘を押し付ける様があまりにも綺麗なので、外筈という表現を用いずにはいられない。
ハマったときの美しさはその通りだが、どうしても相手の当たりを呼びこむような形になるので体力のある相手に強く踏み込まれると、おっつけきれずに差し手の侵入を許すことも。右の使い方も課題となる。
右おっつけ(+左喉輪orハズ)
29年九州で稀勢の里を下した一番に代表される、左封じの策。要領としては、理屈の問題で左にずれ過ぎてしまっては拙いゆえ(仕切りの位置をずらすという策もないわけではないが)、普段以上にまっすぐ踏み込む意識が求められるし、左足から出ることは変わらないため、左の突きをしっかり相手の胸か肩のあたりに当て、押さえておけるか(引っ張りこまれないか)も重要。そこから右おっつけと左の喉輪で挟みつけたい。
同場所では2日目の御嶽海戦でもこの型がハマって快勝。①の立合い強化による恩恵が十分に現れた格好だ。
御嶽海戦では、右からの苛烈なおっつけによって相手の肩が「みちみち」 鳴る音が聞こえたとの本人談。型にハマった芸術的な押しに凄みが身についてきたのは頼もしい。


<攻防分析>
長身かつ膝に故障を抱えながらも、よく膝を曲げ、低い体勢で攻め抜く出足と角度が命の押し相撲は、大学の先輩にあたる妙義龍ゆずり。あくまで押し相撲の型や間合いを大事に取らんとする姿勢には師匠にも共通する玄人好みの要素が満載だ。
元々(高校あたりまでと聞いた記憶がある)は体も小さく、四つ相撲、それも左前廻しを引いて食い下がるような取り口だったようで、その時代の名残か、自分よりまだ小さいくらいの千代の国と右四つに組んでもあくまで頭をつけんと試み、嘉風チックに首を相手の顎の下あたりに入れながら出ようとしたのは驚いた。
得意とする右の差し手は十分に返るし、廻しも切ることができる。豪栄道戦では二本入った体勢から、相手の右首投げを予測して首をすくめるように上体の力を抜いて体を預け、右足も十分に送って完全に体を開くスペースを潰してしまった。無論、幕内上位でいきなり組もうとするのはご法度。その器用さを積極的に生かすのは数年先のテーマとしたい。

デビュー当時から分厚いサポーターが施されている右膝はやや流れやすい面も見受けられるが、稽古量の充実にも担保され、今のところ大きな乱れを感じることはない。

☆主な得意技
型にはまった押しの徹底
御嶽海は差し身の良さなども生かした総合力の高さ、貴景勝は構えを崩さずにじわじわ押す粘り気、阿武咲は立合いからの出足とそれぞれの強みを有するが、流れの中における押しの威力・出足の良さという点では北勝富士に随一の良さがある。あくまで前傾を崩さないことをベースに、事前に描いた戦術に沿った攻めに徹し、頑としてやり抜く空間認識能力の高さにも優れているのではないか。
基本的な押しの型に関しては既述の通りゆえ、やや違った視点からその特徴を掲げてみた。


<平成30年の見どころ>
新年早々の実現は微妙になったが、三役昇進については時間の問題だろう。年齢的にもその上を目指すための確たる足跡を刻めるか。
喫緊に改善すべきは、やはり九州場所後も微修正を重ねているであろう立合いに関する課題。焦らされると突っ掛けがちになってしまう立ち方ゆえ必然とも言えるが、不成立の多さも出来るだけ克服したい。

今回は、いつか浸透するようになればいいなあ・・・などと願いながら、昨年末から密かに「平成のデゴイチ」と名づけ、応援している八角部屋の新星・大輝をピックアップ。

大輝明道 所属:八角 出身:埼玉 生年:平成4年 身長:182 体重:150 タイプ:黒姫山

<プロフィール>
埼玉栄高時代には高校横綱、日体大に進んだ後も2年次に学生横綱、3年次には国体成年男子の部優勝を経験するなど、アマチュア相撲の王道を歩んできた強豪。
4年次に主要3大タイトルの獲得叶わず、前相撲からのデビュー(27年3月)となりましたが、2度の各段優勝など前評判通りの強さを発揮。初土俵からちょうど1年で、幕下一桁の番付まで上がってきました。

<取り口>
分厚い体、大きな額でガツンとぶちかまし、出足速攻で相手を運ぶ押し相撲に徹する好漢。デビュー間もないにも関わらず、その勇壮なる相撲っぷりに魅了され、取り口が近く、背格好も良く似た黒姫山の名前を持ち出したりもしていますが、本人の目標としては、やはり突き押しで綱を極めた師匠北勝海であり、日体大の先輩で突き押しの嘉風であり、妙義龍であり・・・といった人たちにあるのでしょう。

ただ、実は・・・というか、高校時代や大学の早い時期には、まだ体も小さかったそうで、右四つ左前廻しで器用に立ちまわる取り方も多かったらしく、今もその名残で基本に忠実な、型を守って綺麗に相撲を取りたがる場面は目につきます。
それ自体良いことではあるのですが、敢えて嫌な書き方をすれば、突き押しや出足相撲を取る人に特有の爆発力や荒々しさのようなものに欠ける印象を否めないのも確か。この人の場合、ある程度上背もありますから、あまり下から押すことばかりに拘りすぎても、相撲が窮屈になってしまうのではないか・・・ということですね。

具体的に言えば、今は左から一つ踏み込んでガツンとぶちかましてから、型にハマったおっつけや喉輪を利かせて、あくまで密着しながら押していこうとする意識が強いのを、場合によっては、かましてから相手を思い切り弾き、猛然と突っ張りを入れて先手を取るような幅がつけば、より相手にとっての怖さが増してくるのではないでしょうか。
小さくて中に入ってくる、宇良のような相手が苦手と明言しているのも、この点に関係しているようで、小さい人の低さになって、よく見ながら・・・という取り方をしますから、相手としても一気に押されることはないというような気持ちで対しているように映ります。これから、幕下上位~十両へと入っていく中でも、小さい食いついてくる相手は増えますから、他の突き押しや体力のある力士の相撲も研究しながら、苦手意識を持ちすぎずに突っ張りでガンガン仕掛けていけるようなコツを掴んでもらいたいですね。

元々の技術が乏しい力士に対してこういう内容を求めても、ある種の「猪突猛進」を招くことにしかならないですが、この人のように基本も十分知っていて、理詰めで考えることもできる力士ならば、今後番付を上げていくごと、着実に正しい順序及び方向に幅を広げて行くことができるのではないかという期待は大いにあります。
1場所の内容を見て劇的な変化に気づくというよりも、年単位で「強くなったなあ」という変化をじんわりと感じさせてくれる、そういう成長を遂げながら、いずれは幕内、そして上位の土俵へと殴りこみをかけてくれることでしょう。

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