宝富士大輔 出身:青森 生年:昭和62年 所属:伊勢ヶ濱 身長:185センチ 体重:168キロ タイプ:左四つ左腰型

<立合い分析>
右で踏み込み、左を固めつつ胸を出して当たるのが基本。出足はないが威力は高く、左の固さ・腰の重さは一級品で受けの強さを存分に生かしている。
近年見られるようになったのが頭で当たる立合い。左は固めて相手の右を跳ね上げるように、右は相手の左腕のあたりを押さえるようにして立つ右四つ用の対策として用いている。おっつけながら左を差し勝てれば理想的だが、相手に腰を据えさせず、止まらずに攻めることが出来れば、右四つに渡り左上手を引く体勢でも攻めることができる。

もしかしたら「名参謀」安美錦の助言があるのかもしれないが、立合いは十分に策戦を練って挑むタイプ。決して種類自体は多くないが、白鵬との駆け引き勝負で堂々と互角の戦いを演じているように、当てはめる作業の巧みさが光る。
頭から行く立合いで白鵬を一蹴(28年春)した次の場所で、(頭で出るところを)張り差し&かち上げの餌食にされるや、その次の対戦では白鵬の右かち上げを立ち腰で受けるようにして左で押さえ、前捌きの応酬から横綱が焦れて半端に右を差しにくるところ、得意の左突き落としで術中にはめ込んだのは見事というよりほかない。



踏み込み足:右 前述した右四つ相手に頭で出る場合は、本来左で踏み込む方が合理的ではあるのだが、あくまで右から踏み込んでいく。このあたりの柔軟性も身につけられるのならばそれに越したことはないが…
手つき:嘉風、魁聖らと同じく、両手を下ろして相手を待つ姿勢に拘るタイプ。ちなみに嘉風や魁聖とやるときに関しては、相手に先に手を着かせている。
呼吸:相手との呼吸を半ば無視して先に両手を下ろす仕切りの問題点については嘉風のところで書いた通りだが、この人の場合は腰を決めるのにせよ両手を下ろすのにせよ「さっさと」感は薄く、呼吸を合わせるという意識自体は見られるので、後から立つ方もやりづらさは少なそう。ゆえに不成立の数もさほど目立っていない。
寧ろ相手に焦らされることで両手に力が入りすぎて立ち遅れたり、焦れて重心が多少後ろや上に向いたところで立たされるケースがみられ、こうなると腰の重さ・脇の固さを生かしきれずに先手を取られてしまう。



<攻防分析>
とにかく先ずは左を差したい人なので、早くその形になれればよいのだが、相手も十二分に研究しているゆえ簡単には差せない。宝富士の側も織り込み済みとばかり、いきなり手先で左を差そうとするのではなく、突き押しで攻めてくる相手には腕や肘のあたりを左右で宛てがいながら、差し手争いとなる場合は浅く覗いた相手の右を小手に振るようにして絞り、抜けたところを下から差し返していくというように我慢強く型通りの対応に徹して相手の体形を崩しながら左を差すことを心がけている。
左を差した後の攻めにおいても、無造作に手を伸ばして右を取ろうとするのではなく、おっつけながら前廻しのあたりを探ることが出来るのが長所。そのまま廻しが取れればいいし、取れなくても相手は腰を引いて廻しを遠ざけようとするので、自然と前へ出やすい体勢は整っていくのである。
典型的な左四つ力士らしく、左の差し手はよく返る方で、下手を引いた場合に相手の上手を許さぬよう十分に肘を張るような動作は、今の時代、誰にでも出来る技能ではなくなりつつある。

左を思うように差せず押し込まれた場合も、腰の重さや意外と身軽に左右へと回り込める足を生かして、突き落としや小手投げでの逆転、あるいは俵に詰まりながら半身を作り加減に左を差し込んで逆襲に転じていくような場面も多く見られる。無論、なるべく押し込まれるような展開にはならないほうが良いのだが、前提として受ける相撲を取る人だけに、その拠り所として土俵際の粘り強さが担保されているということを「強み」として取り上げても差し支えはないだろう。



<平成30年の見どころ>
昨年は左肘の怪我なども長引いたか、隠岐の海同様に上位で活躍できない一年となってしまった。突き押しを主体とする若手の相次ぐ台頭にタジタジとなる場面も見受けられる。
とはいえ、去る九州では負け越したものの久々に存在感を発揮、貴重な「白鵬キラー」としての値打ちも改めて証明してのけた。地力に衰えはなく、新年は一場所でも多く上位にあって実力者健在をアピールできるか。