土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category:2019年 > 序盤~中盤

昨日までの暑さが嘘のように涼しくなった両国の空から、秋風とともに嘉風引退という寂しく辛いニュースが舞い込んできました。「土俵で散りたかった」という本人のコメントが身に沁みるのなんの、当ブログ的にも非常に思い出深く、取り口分析の楽しさを教えてくれた最大の存在と言える力士。もうその相撲が観られないという事実をまだ受け止めきれずにいます。


※今日の鶴竜の一番について詳しく書いていたら疲れてしまったので、貴景勝以下はざっくり。まあ、明日以降も書ければ随時書いていくつもりなので…


鶴竜 4-1
昨日伝言板で書いた通り、反応は鋭いながら今ひとつ腰が安定せず攻めも上ずり加減で、相手を運び去る(攻めきる)だけの根拠に欠けているというのが正直な感想。4日間観て不安が消えぬままだったので一足早く触れてみたのですが、結果として今日敗れ、後出しにならなかったのは良かったのかどうか…

白鵬と同じように満身創痍で土俵に上がっていますから、状態良く場所に入ったとしても、いつどのタイミングで体に変調が起きてもおかしくない身。腰が悪いという先入観がある分、3日目の碧山戦で少し嫌な腰の入り方をしただとか少しの異変も目についてしまいますが、ともあれ万全とは言い難い体調で土俵に上がっていることは想像に難くありません。

今日の一番、立ち合いは右差し左前廻し狙いで立つも、(先場所とは違い)かまして立ってきた朝乃山の立ち合い良く、右を割り込みながら左でぐいっとばかり引っ張り込まれると忽ち上体が起きてしまう。右からの投げも左からの予備動作なく不十分な仕掛けで、呼び込んで左上手を許すわ左は巻き替えられないわで散々。万全の体勢で寄り詰める朝に対し、胸を合わされた鶴は抵抗できずに下がるだけ。俵を頼りにした右下手投げを捨て身の一手とするが、これも右を十分に返されているために左からの仕掛けなく、腕の力だけで打つような格好では残しようがありませんでした。

この横綱の主要な負けパターンと言えば、自分より大きい相手に引っ張り込まれて胸を合わされるか、角度良く押されてまともな引きを出してしまうか。それに加え、腰の不安を衝いた前後の揺さぶりも効きそう。
残りの対戦相手にそうしたタイプの難敵が多く、今日の相撲を観る限りあまり楽観できませんが、先場所の友風みたく相手の研究いかんもあるにせよ、一番は体調に合わせた取り口を纏め上げる自分自身との戦いでしょう。



豪栄道 4-1
現時点で「鶴竜と豪栄道どちらが好調か」と問われれば、即答で後者と答える。3日目苦手の遠藤に対し、悪い癖の左に固執する取り口で星を落としましたが、それ以外の相撲は踏み込み・出足ともに鋭く、止まらず攻めきる強みを発揮することが出来ています。
今日の大栄翔戦も決まり手こそ引き落としですが、前回まで対戦成績3連敗していたときのように腰を崩され、まともに引いてしまうのではなく、しっかり相手の突き放しを宛てがい、受け止めてから、余裕をもって左に開く形。こういう流れで相撲が取れているときの豪栄道には信用が置けます。

そんな大関にとって難関と成りそうなのが明日の朝乃山戦(対戦成績2連敗中)。左を意識するあまり、ずれ気味に左の深い上手を探るような立ち合いで胸が合ってしまっては完全に分が悪く、先ずはかましてくる相手の立ち合いに負けぬ鋭さで当たれるかどうか。前に出ながらもろ差し乃至右四つ左前廻しの得意型を作りたい。


貴景勝 5-0
まだ攻める方向が微妙にズレていたり、いなす際の体の開きが足りなかったりで、ぎこちなく見える場合も散見されますが、2場所休場明けの序盤と考えれば、白星がついてきていることも含め上々の出だしと言えるでしょう。
大関復帰については、残り五分で届く計算ですから近づきつつあるのは確か。中盤の入り口にあたる明日、好調遠藤は下半身の踏ん張りが効くという点で直近2連勝しているときのコンディションとは違うだけに、変わらぬ勝ち味で一方的に押し込めるようなら、さらに楽しみは広がっていきそうかなと。


遠藤 4-1
技術的な部分については当ブログで何度も言及していますし、今更アレコレありません。とにかく上位の土俵で2場所連続下半身の踏ん張りが効いた遠藤を見られることの価値は計り知れないなと、それだけを書きたかった(笑)
ひとまず明日の貴景勝戦、どれだけ通用するのかワクワクしています。


明生 4-1
先場所の上位挑戦で大いに揉まれ、下位から出直しの今場所は貫禄さえ感じる活躍ぶり。目の覚めるような速攻相撲だけではなく、昨日の阿武咲戦、今日の宝富士戦と状況に応じた理詰めの動きで相手を捌くような大人の取り口が出てきた。以前のようなバタ足も減り、家賃の安い地位で無理なく腰を安定させながら土台の崩れにくい相撲を取れているのは本当の地力がついた証拠ですし、阿武咲や宝富士を相手にそういうことを感じさせることのだから大したもの。
平幕では隠岐の海、妙義龍らも好調ですが、敢えて一人挙げるなら断然この人。今場所こそ技能賞の栄誉に浴してもらいたいと願っています。

幕下以下の更新もあるので、全勝の鶴竜・栃ノ心だけをごく簡単に。11日目以降はいつもの記事でやるとして、ここでは10日目までの行方を展望してみます。

鶴竜 
初日、苦手御嶽海戦に快勝して好調を予感させ、2日目北勝富士を電車道で運び去り、絶好調を確信させた。踏み込みの速さ(呼吸を測る上手さも含む)・出足の鋭さ、当然悪いときのように上体が突っ立つこともなく、絶えず上目遣いで相手を見据えながら、忠実な押しの構えによって安定した相撲内容を形成。
北勝富士戦は、左足から出ることの多い横綱が右足からの踏み込み。それが左にずれる相手の取り口に噛み合ったことも一方的な展開に結びついており、策戦面の選択においても勘の冴えが光っている。

鶴竜の主要な負けパターンと言えば、自分より大きい相手に(主に左を)引っ張り込まれて胸を合わされるか、角度良く押されてまともな引きを出してしまうか。
その点、この場所は3日目の琴奨菊戦で前者・6日目大栄翔戦で後者の危機に陥り、辛くも切り抜けいるのがある種の良薬として機能しているよう。
中盤戦以降の対戦相手で意外に怖いのが、前者パターンで数度苦杯をなめている隠岐の海。阿炎も上位には少ないタイプで最近対戦がない(一門も変わってしまった)だけに、立ち合いのもろ手を受け損なったとき、前後で揺さぶられる展開にやや怖さが残る。



栃ノ心
やっとのことで左からの踏み込みが深く確かなものとなりつつある。そのような立ち合いに踏み切れるということは即ち二歩目にあたる右足の具合も良くなってきた証左、私の大好きな(笑)右からの攻めも現れて、突っ張ってくる相手に対し、下から手を使っての右差し→左上手という流れが出るからこそ絶好の形で組み止められるというのが初日~2日目であった。
窮屈な体勢から右足を支えに強引な捻りを見せた3日目、新大関場所で怪我をさせられた相手に同じような展開を作られかけた4日目の相撲は冷や汗、しかし5日目以降は星がついてきた余裕もあってか、また上り調子と見做してもよさそうな3日間となっている。
不安要素としては、本人の意識がやや左に偏りがちな部分。恐らく明日の遠藤は先に右を差し、左から左から攻めて二本入ろうとしてきますから、右の甘さが急所にならなければ…という気はしています。
苦手相手の明日を問題なく取れれば、ひとまず大関復活の可能性はかなり高くなるでしょうね。

3月12日(3日目終了後)
(前略)本場所の話題としては、大栄翔の相撲が良い意味で小さく・細かくなってきた(安定性が増しつつある)のが目につきます。
今場所の「思い出の土俵」は、たびたび似ていると評される保志(北勝海)が初優勝を果たした61年春場所ですが、今日髙安を根こそぎ運び去った左ハズ右おっつけの出足を見ていると、同型と看做されることも満更ではないように思えてくるし、取り口分析の記事で「当たりの強さ・鋭さよりも角度を重視していくことがキッカケになるかも」と書きましたが、それに近い土台が出来上がりつつあるみたい。
明日の白鵬戦、大横綱と言えどひとたび受け損なえば、一気に持って行かれる可能性は否めず、他の上位陣や貴景勝・御嶽海らにとっても気の抜けない相手となりそうですね。


3月13日(4日目終了後)
白鵬は基本的には先場所と似たような状態に見えますね。明日は妙義龍。ひとつ押し上げてからパッと真下に引いたらどうなるかというのを見てみたい。あとは豪栄道のように手先で払うような引きもあるので、横綱の出足にうまくタイミングが合えば…とかかな。わざと誘えるなら大したものだけど。
白鵬としては、今日久々の張り差しを出しましたが軽かったですし、明日は出さないような気がします。


3月14日(5日目終了後)
いやはやグラっときましたね、やっぱり。
やるべきかどうかはともかく、仮に妙義龍があそこから更にまっすぐ下がって頭を押さえつけていれば、際どい勝負になっていたかも。
上体が立ち、三歩目の足が遅れたところを突くというのは、ある程度挑戦する各力士の共通理解になりつつあると思うのですが、あまり考えすぎてもその通りには体が動かないでしょうから、バランスが難しい。
ただ、思い切るところは思い切らないと勝てないのも確か。明日対戦する錦木の場合、先場所のように左を差された場合、もう自分の右肩を土俵にめり込ませるくらいのつもりで、下に叩きつけるしかないでしょう。本当は深く差される前に打ちたいですが、十分に差された際には荒鷲が時々やる真上に振ってからとったりに打ち替える手もあるか。

白鵬としては、先場所取り直しになった一番で錦木の腕力を体感済み。リスクを避けたいですから、今場所豪栄道がやったように張って横から崩す戦法を採るのでは。


3月15日(6日目終了後)
白鵬×錦木
相手に把握されやすいような欠陥を自身が気づかぬはずもなく、慎重に慎重に取っている白鵬の姿が目立ちます。錦木は最初右を覗かれた瞬間とったり気味に打てれば、さらに最後左から振った場面でもう一度連続して振り回せていれば…というところですが、得意とは反対の左で抱える格好ゆえ勝手が違ったか。次は魁皇みたく立ち合い変化気味にとったりを仕掛けても面白そう。

大栄翔×豪栄道
両横綱と豪栄道の違い、前者は角度をつけて横から崩すような引きで大栄翔を崩したのに対し、豪栄道はまともに真っ直ぐ引いて付け入られた。余裕の違いと言い換えることもできるでしょう。

貴景勝×魁聖
魁聖は立ち合い両手を下ろして相手を待つタイプ。貴景勝がその仕切りを利用し、焦らして焦らして立ちましたから、その落ち着きぶりが勝因のほぼ全てといえるのかなと。
6日間振り返ってみると、勝った4番と負けた2番は「貴景勝の思うままに立たせている4人(北勝富士は行司が止めてくれたので二度目に修正しましたが、一度目は完全に貴景勝の呼吸で立たれました)」と「狙い通りには立たせなかった2人」との色分けが可能ではないかと考えています。



3月16日(7日目)の見どころ
白鵬×正代
やはり立合いの呼吸具合が最大のカギで、廻しを与えることなく二の矢の展開に持ち込めれば、正代にも十分勝機あり
そこから自分が差すことよりも、差してくる手をおっつけたり、突いてくる手を跳ね上げたりしながら白鵬が焦れて引くのを待てるかどうか。
まんま先場所ツイッターに書いた文章のコピペですが、これに尽きると思うので。


御嶽海×豪栄道
御嶽海は豪栄道に密着させぬよう、左おっつけで豪栄道の右を封じ、焦れて引くのを待っています。
豪栄道としては昨日の反省点を生かしやすい相手。左の使い方が鍵になるでしょう。
しょっぱい相撲では勝てないタイプですから、良い相撲で勝つか昨日を引きずった負け方をするか。今場所優勝争いにしがみついていく上で試金石となる一番ですね。


貴景勝×大栄翔
大栄翔も昨日の魁聖同様に両手を下ろして待つタイプなので、貴景勝としては自分の呼吸でいきやすい相手。先手を取り、自分のペースで突いていなしてが出来れば優勢ですし、そうした流れに持ち込める可能性は高いですが、気がかりなのは攻めきれなかったときの対応。まともな引きや、視すぎて胸を出すような具合になってしまうと大栄翔のはげしい逆襲に遭うでしょう。



9日目の見どころ
白鵬×御嶽海
付かず離れずの距離感で、白鵬をよく視て押さえながら隙を突くのが御嶽海の戦法。
素早く近づきたい白鵬としては、張り差しを用いるのかどうか。左で張って右差しは御嶽海も想定しているだけに、右で張って左四つに捕まえる構想もありえます。とにかく間合いの制御いかんに尽きる対戦でしょう。


鶴竜×栃煌山
今場所一番の内容で勝った中日と同じ展開、鋭く踏み込んでからの突き起こしで先手を取り、相手を中に入れないこと。先場所は立ち合い変わられており、それを気にして様子を見るような立ち方をしてしまわなければいいのですが…


逸ノ城×豪栄道
豪栄道は錦木戦・魁聖戦同様に胸を合わせずに横から崩したい。場所中に痛めたものと思われる左足への負担を考慮すれば右からの投げは怖く、左から左からと相手の腰が軽い内に攻めきれるかどうか。
逸ノ城が意外と突っ張ってきたりしたときに泡を食って引いてしまわないかも気がかり。



10日目の見どころ
本日の注目3番
髙安×逸ノ城は、以前書いたこちら
白鵬×玉鷲は、先場所分のこちらこちらの該当箇所(かなり下の方です)をご覧いただければ。特段構図が変わっているわけではなく、「今場所ならでは」という論点もないので、十分足りるかなと思っています。

鶴竜×貴景勝も、注目点はいたってシンプル。貴景勝が復調した鶴竜のスピードに対抗する術はあるのかどうか。先場所の豪栄道戦みたく速さ負けして下に入られると、もはや引く以外の方法はなくなりますからね…

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